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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2016年05月24日

旅なかま5・6月号 〈特別インタビュー〉ロマネスク再発見(後編) 美術史家 池田健二氏

〔本稿は会員誌『旅なかま』2016年5・6月号に掲載されたものです〕
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〈特別インタビュー〉ロマネスク 再発見(後編)美術史家 池田健二氏 聞き手 鹿野眞澄(朝日旅行 前東京支店長)

4月号で大きな反響をいただいた池田健二先生のインタビュー。後編は、癒しと幸福、そしてスペインからイギリス、ノルウェーまで、深淵な世界を語っていただきます。

癒しと幸福のロマネスク

鹿野(以下 鹿):先生はだいたい年に2〜3回、30年ぐらいにわたり、ロマネスクを巡ってこられたわけですが、それを突き動かす情熱は、ご自身では何だと思われますか?

池田(以下 池):それは2つあります。まず、自分で全てのロマネスクを見たいということです。見始めると止まらない(笑)。これは全てのロマネスク好きの方に共通していることですね。全部見たい。もう一つはできるだけ多くの方に見ていただきたいという気持ちです。その2つがこれまでロマネスクめぐりを続けてきた理由だろうと思います。

鹿:お客様の中には「他は何も見なくていい。ロマネスクしか見ない」という方もいらっしゃいますね。

:そうなのです。狂わせてしまうのです(笑)。ロマネスクの教会の前に立つと、あるいは教会がある風景に出逢うと、全身が幸福感に包まれるという経験をすることがあります。それは、たとえばヴェズレーであれば丘を遠望する時かもしれないし、コンクであれば、巡礼路の坂道を登る途中、教会の姿が見えてきた時かもしれない。モワサックであれば、回廊に入り、光を浴びるその瞬間かもしれない。陶然としてしまう、そういった瞬間が必ずあります。そしてそれを一度経験すると、ロマネスク巡りは止まらなくなりますね。

ロマネスクの白眉。コンクのサント・フォア教会
モワサック サン・ピエール修道院回廊

鹿:美しいだけではなくて、「何か」感性に訴えるものがあるのでしょうね。

:それは私だけではなくて、犬養道子さん、彼女はカトリックの信者でいらっしゃるんですが、「私はロマネスク以外の教会では、祈る気になれない」とおっしゃっています。まさにその「何か」の一端を示していると思います。まず、とても内省的です。これは、ゴシックと比較するとよくわかります。ゴシックは人々の魂をそのまま上に上げてしまいますが、ロマネスクは、そうではなく、むしろ石に包まれることによって、自分の視線を内側に向けるという特性があります。だからでしょうか、ロマネスク教会はいくら見ても、全く疲れません。むしろ癒されます。

鹿:確かにゴシックは疲れますね(笑)。

:はい(笑)。それから、引き算の芸術、つまりできるだけ余分なものを排除して、表現したいものの本質に単純化していく、ロマネスクにはそういう方向性があります。それは日本の「わび・さび」といった側面にも通じます。それも我々日本人の心に強く響くところだと思います。れることによって、自分の視線を内側に向けるという特性があります。だからでしょうか、ロマネスク教会はいくら見ても、全く疲れません。むしろ癒されます。

ロマネスクの地域性と「共振」
「ゾディアック」の出版活動によって、ロマネスク研究に偉大な功績を残したドン・アンジェリコと池田健二先生。(2004年撮影)

鹿:ロマネスクの面白さのひとつに、同じようでありながら、地方によって違うという点があります。そもそも地元で採掘された石を使うことも多いですし、石の積み方にも地域性があります。彫刻の文様も多様ですよね。それはいかがですか?

:ロマネスクの芸術運動というのは、11世紀、12世紀、ヨーロッパのカトリック世界で一斉に起きたもので、勿論一定の共通性・普遍性があります。同時に、ロマネスクには強烈な個性・地方性・ローカリティが存在します。それは、その地方に元々存在していた芸術の伝統であったり、地方の人々の美に対する好みであったり、そういったことによる違いだと思います。

鹿:素朴な疑問ですが、石工とか壁画を描く職人は、あちこち行ったり来たりしているわけですね。

:十字軍の影響もあり、どのように影響しあったかということは、なかなか見極めが難しいんですが、ただ、大勢の人間が聖地に行き、砦や城塞を作る。そして戻ってくる。当然その間にいろいろなものを吸収してくるわけです。

鹿:サンチャゴ巡礼路も同じですね。

:そのとおりです。ヨーロッパ各地から多くの人が長い道のりを歩き、その途中で無数の教会建築に接する。そして帰ってくる。一方通行ではなく、往来していたわけですから、当然影響し合っていました。確かにロマネスクの芸術運動はフランスで先に発展し、サンチャゴ巡礼路を通って、スペインに持ち込まれたという言い方もできますが、むしろ時代的に見ていくと、ほとんど同時代に発達しています。いろいろな見方ができますが、12世紀の前半1130年頃、ちょうどヴェズレーのタンパンが刻まれる頃、この頃をロマネスク芸術の最盛期とみるとわかりやすいですね。その時点に立って見渡してみると、サンチャゴの大聖堂はできていますし、ヨーロッパ全体での時間的な前後関係がわかってきます。つまりロマネスクの運動は、ヨーロッパ全体でかなり同時性が高いということなのです。

鹿:影響を与えたのではなく、影響し合っていたということですね。

:そうです。私はこれを「共振」と呼んでいます。

個性的なロマネスク・スペイン
イギリス・ロマネスクの最高傑作、キルペックのセイント・メアリー・アンド・デイヴィッド教会の南扉口。

鹿:これまで、フランスを中心にお話しいただきましたが、他の国はいかがですか?たとえば、モサラベ様式などは、スペインにしかありませんね。

:あれは強烈ですね(笑)。レオンの近くのサン・ミゲル・デ・エスカラーダなど、一度アラブの文化が入ったことから生じる非ヨーロッパ的なものとヨーロッパ的なものとの不思議な融合がありますね。それが、スペインの魅力だろうと思います。スペインは他の地域と異なり、西ゴートのキリスト教芸術に始まり、南はイスラム、北はアストゥリアスの影響がある。そして、レコンキスタ(国土回復運動)の途中からはモサラベの影響もある。更にその上にサンチャゴ巡礼路を通じて、フランスの影響が入ってくる。そういった重層性というものが、非常に個性的なプレ・ロマネスク、そしてロマネスクを生み出していると思います。

モサラベ様式の傑作、サン・ミゲル・デ・エスカラーダ修道院。馬蹄形のアーチが美しい。
北のロマネスク

鹿:まだまだ紹介されていない地域について是非お伺いしたいのですが。たとえばイギリスや北欧などは

:イギリスも素晴らしい。イギリスの場合は、ノルマン・コンクエスト(ノルマンディー公ウィリアムのイングランド征服)の影響があり、それ以前のサクソンの様式とフランス的なノルマン様式、その入り交じり具合が魅力です。ノルマン様式とはいいながら、ノルマンディーとイングランドでは、共通性もあれば相違もあります。その相違に、イギリスの土着のもの、美的な感覚が現れてくるのではないかと思います。
北欧でしたら、スウェーデン。南部のスコーネ地方にルンドという街がありまして、その周辺に素晴らしい教会と洗礼盤の浮彫があります。なぜかというと、バルト海にゴットランド島があり、このゴットランド島に12世紀、沢山の石彫の工房があったのです。そこで制作された様々な図像だらけの洗礼盤が、対岸のスウェーデンに輸出されました。それは実に見ごたえがあります。さらに北に延ばせば、ノルウェーのスターヴ教会があります。つまり「スカンジナビアのロマネスク」更には、ドイツ、スカンジナビア、イギリス、アイルランドで、「北のロマネスク」という位置づけもできるのです。

鹿:「北のロマネスク」ですね。

:ゲルマンの神話とキリスト教が入り混じった図像が沢山でてきますし、装飾文様なども、ウルネス(ノルウェー)では、ウルネス文様という独自の様式が見られます。そうすると、南の地中海沿岸の影響がなくはない、しかし明らかに南とは異なる、原始ゲルマン由来の美意識を垣間見ることができます。ロマネスクという世界の中で、ひとつの認識としてそれを見るということは、非常に意味のあることですね。

鹿:あらためて「ロマネスクはヨーロッパが一つで合った時代の普遍的なもの」という意味が伝わってきます。ロマネスクの世界は無限で、楽しみは尽きないということがよくわかりました。是非皆様にも、その世界を味わっていただきたいですね。今日は貴重なお話しをありがとうございました。

現存するスターヴ教会の中では最大のヘッダール・スターヴ教会
ウルネス・スターヴ教会に残るウルネス文様。動物や蔓が絡む独特のデザインが美しい。
中世の城壁都市の典型カルカッソンヌ(フランス)

本インタビューの前編「ロマネスク再発見」は、旅なかま4月号に掲載されております。こちらからもご覧いただけます。
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画像提供:池田健二氏

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投稿:朝日インタラクティブ