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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2018年07月30日

旅なかまVol.293 ヨーロッパ年末年始恒例の音楽シーンを愉しむ

〔本稿は会員誌『旅なかま』2018年Vol.293に掲載されたものです〕
ご新規のお客様には見本誌を無料でお送り致しますので、こちらのフォームからお申込みください。その際、「旅なかまVol.293希望」とご記入下さい。なお、部数に限りがございますので、お早めにお申込みください。

ベルリンフィル ジルベスターコンサート

ヨーロッパ年末年始恒例の音楽シーンを愉しむ(ジルヴェスター・コンサート  ~ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団~・~シュターツカペレ・ドレスデン~/ニューイヤー・コンサート  ~ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団~)

 大晦日の夜というと、除夜の鐘が荘厳に鳴り渡る光景を思い浮かべられる方も多いでしょう。ただしこれは、日本での話(といっても最近では、必ずしもそうと限らなくなってきましたが…。)
ではヨーロッパは、というと、お祭り騒ぎです。時計の針が深夜を指す頃になると、街の中心にある広場は、大勢の人々で埋め尽くされてゆきます。飲める向きは、手に手にワインやビールなどを持って上機嫌。やがて、いよいよという瞬間になるとカウントダウンが始まり、新年に入った途端そこかしこから花火が上がり爆竹が鳴り、大歓声が轟き…といった具合に、賑やかさが爆発します。
そんな習慣を受けてでしょう。音楽の世界も、大晦日(ジルヴェスター)から新年(ニューイヤー)にかけては、年に1度のお祭り、といった様相を呈します。特にクラシック音楽界の場合、普段であれば深刻なレパートリーが演奏されることがほとんどですが、年の変わり目だけは弾くほうも聴くほうも無礼講で羽目を外したいというもの。それこそが、ジルヴェスター・コンサート、あるいはニューイヤー・コンサートです。
例えば、名門オーケストラの代名詞ともいえるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(ウィーン・フィル)の場合。楽団創設の理念の1 つに、「ベートーヴェンの交響曲を完璧に演奏すること」を掲げた楽団が、この時期だけはワルツやポルカをはじめとするダンス音楽を愉しそうに演奏するなどは、その典型ではないでしょうか?

ドレスデンゼンパーオーパー
写真提供:Semperoper Dresden

ところがウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの歴史を辿ると、愉しさ一辺倒でなかったことが分かります。ニューイヤー・コンサートの前身にあたるジルヴェスター・コンサートが始められたのは、1939 年のこと。当時のオーストリアはナチス・ドイツに併合されており、オーストリアという国そのものが消滅してしまっていました。
そんな状況の中、ナチスはオーストリアの人々を懐柔しようと作戦を打ち出します。オーストリア人の心のよりどころであるシュトラウス・ファミリーの作品を、オーストリア縁のウィーン・フィルに演奏させる年末の無礼講の演奏会もその1 つ。しかも実のところ、シュトラウス・ファミリーの中には、ナチスが抹殺を企てたユダヤ人の血が混じっていたのですが、そうした不都合な真実は当のナチスによって揉み消されてしまいました。
こうして始まった1939 年のジルヴェスター・コンサートは、不安の時代を生きていた人々の心をつかみ、大評判となります。そして1941 年以降は、ニューイヤー・コンサートとして更なる発展を遂げ、ナチスの支配が終わった第二次世界大戦後も途切れることなく続きました。
ちなみに、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ベルリン・フィル)のジルヴェスター・コンサートがスタートしたのも1948 年。ベルリンは、ナチス・ドイツの首都であったこともあり、第二次世界大戦末期には連合軍による激しい空爆を被り、街は廃墟と化していました。ベルリン・フィルの本拠地であったフィルハーモニー・ホールも、空襲で見る影
もなく崩れ去ってしまっていました。
ですがそんな時代だからこそ、ベルリンの人々は心の渇きを潤すかのように音楽を求め、とりわけ1年が移り変わる時が近づくと、少しでも憂き現実を忘れようとしたのです。そしてベルリン・フィル自体、ないないづくしの状況の中で、そのようなベルリン子の熱い思いに応えていったのでした。

ウィーン楽友協会(外観)
©AST

ベルリンフィルハーモニー(外観)
©Brun Philharmoniker

ウィーンフィル ニューイヤーコンサート
©Osterreich Werbung

こうした具合に、名門オーケストラのニューイヤー・コンサートやジルヴェスター・コンサートは、彼らのホームグラウンドにおいて、辛い暗黒時代を生き抜こうとした人々のためにスタートしました。つまり、元はと言えばローカルな催しであって、地元のファンが楽しむための祭りだったわけです。
ところが、そこへ徐々に国際化の波が押し寄せます。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは、1959 年以降テレビやラジオによる収録が始まり、やがては全世界へ中継されるまでになりました。指揮台に立ったのは、1955 年以降およそ四半世紀もの間この演奏会の指揮者をつとめることとなった、ウィーン・フィルの名コンサートマスターのボスコフスキー。往年のシュトラウス・ファミリーのように、ヴァイオリンを奏でつつ、オーケストラをリードする愉しげな表情は、ナチス・ドイツの併合下に置かれた負の歴史を乗り越え、戦後は中立国としての歩みを始めた新生オーストリアの象徴でもありました。
かたやベルリン・フィルでは1955 年以降、世界的指揮者のカラヤンが芸術監督に就任します。「帝王」と呼ばれた彼は、早い時期からメディアの重要性に着目し、それはジルヴェスター・コンサートをテレビやラジオで広く発信するプロジェクトへと発展しました。しかも、ベルリン・フィルのライヴァルと喧伝されるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを意識したかのように、ジルヴェスター・コンサートでも時に当のシュトラウスのワルツが取り上げられたり、あるいは普段の演奏会ではお目にかかれないようなライト・クラシックが登場したり、という工夫が随所に仕掛けられていました。
そんなカラヤンは晩年、ベルリン・フィルとの不仲がささやかれる中、1987 年にウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに登場し、歴史的な名演を残します。そしてこの時以来、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートには毎年かわるがわる、世界的名指揮者が登場するというスタイルが定着しました。

いっぽうベルリン・フィルのジルヴェスター・コンサートは、カラヤン亡き後このオーケストラの芸術監督となったアバドやラトルが、ほぼ毎年のように登場し、年に1 度のお祭りに相応しい趣向を凝らしたプログラムを繰り広げてきました。そこへいわば新規参入したのが、シュターツカペレ・ドレスデンです。
現存するヨーロッパ最古の名門として、本拠地のドレスデン国立歌劇場でオペラに演奏会に活躍しているこのオーケストラ。ジルヴェスター・コンサートが世界的に中継されるようになったのは2010 年からと、意外と最近です。ドレスデンは冷戦下、ドイツが東西に分裂を余儀なくされる中で東ドイツの一都市となり、シュターツカペレ・ドレスデンも幻のオーケストラといったイメージに包まれます。それがドイツ再統一後、文字通りドイツ音楽の象徴ともいえる名門の1 つとして、ベルリン・フィルとも双璧を成す存在となり、放送や録音を通じ世界へ向けた発信も積極的におこなうようになりました。
現在の首席指揮者は、カラヤンの弟子でもあったティーレマン。その圧倒的なカリスマ性の下、レハールのオペレッタをはじめ、ベルリンやウィーンとは一味二味異なるプログラムで、年末の華やいだお祭り気分を盛り上げます。しかも2019 年は、ティーレマンがウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに初登場することとなったため、逆にこれまで同演奏会に2 度指揮したことがあるヴェルザー=メストが、シュターツカペレ・ドレスデンのジルヴェスター・コンサートに初登場。さらにラトルの辞任にともない、1 年間は音楽監督不在となっているベルリン・フィルのジルヴェスター・コンサートには、この街のもう1 つの名門オーケストラ、シュターツカペレ・ベルリン音楽監督のバレンボイムが登場します。
それぞれの都市が体験した激動の過去を乗り越え、今や世界中の人々を魅了するニューイヤー・コンサートやジルヴェスター・コンサート。年始年末の華やぎに満ちた特別な雰囲気の中、音楽の力による平和の祭典を楽しみましょう。

※年末年始の音楽の旅ツアー詳細は、下記からどうぞ!

12/27発 感動のベルリン&ドレスデン 2つのジルベスターコンサートとニューイヤーオペラ『ファルスタッフ』

12/27発 ベルリン&ウィーン滞在 ベルリン・フィル ジルベスターコンサート&ウィーン交響楽団”第9” 催行間近!

12/29発 【プレミアムエコノミークラス利用】5つ星ホテル グランドホテルウィーン”エクスクルーシブルーム”5連泊 ウィーンで迎える2019年 催行決定!

12/29発 【全日空利用】5つ星ホテル グランドホテルウィーン”エクスクルーシブルーム”5連泊 ウィーンで迎える2019年 催行決定!

小宮 正安

小宮 正安

Profile
横浜国立大学大学院都市イノベーション学府・都市科学部教授。専門はヨーロッパ文化史。著書に『コンスタンツェ・モーツァルト「悪妻」伝説の虚実』(講談社選書メチエ)、『名曲誕生時代が生んだクラシック音楽』(山川出版社)、『音楽史 影の仕掛人』「オーケストラの文明史 ヨーロッパ3000 年の夢』(春秋社)など多数。『ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート』でのコメンテーターをはじめテレビやラジオへの出演、『東京・春・音楽祭』でのナヴィゲーターなど、幅広い分野で活躍している。

投稿:首都圏発海外旅行担当