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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2018年05月29日

旅のサイドストーリー ~旅人の心に添う 秘湯は人なり~

≪心を満足させてこそ宿≫

乳頭温泉郷 鶴の湯温泉

佐藤和志さん

 

今やガイドブック上位ランキングの常連で、予約の取れない秘湯として有名な乳頭温泉郷「鶴の湯」ですが、これまでの道のりは失敗の連続だったようです。館主・佐藤和志さんに秘湯の秘話を聞きました。

 

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私が脱サラして、鶴の湯温泉を譲り受けたのは昭和56年のことです。秋田藩主もお気に入りの由緒ある湯治場で、白湯、黒湯、中の湯、滝の湯の4つの源泉が自噴する素晴らしい温泉と聞いていましたが、実際に見に行くと、宿に行く道は藪に閉ざされ、建物はトタン板の屋根をロープで括り付けたような有様でした。お金が無かったので、中古ブルドーザーを自ら操縦して道を整備、地元で安く仕入れた木材で建物を補強、発電には水車を使いました。手作り「鶴の湯」は、元々が名湯であったおかげで、徐々にお客様が増えていきました。

その頃です。すぐ近くで大手旅行会社の大型リゾート計画が持ち上がったのは。苦労して蘇らせた温泉宿と周辺のブナ原生林を救いたい一心で大借金をして旅行会社から土地を買い取ることにしましたが、銀行の融資条件は、収入増のために冬も営業可能な大型の別館を建てること、でした。

 平成6年に別館をオープン。全室バス・トイレ付。鶴の湯よりグレードの高い自信作でしたが、別館にはお客様が泊まりたがらず、絶体絶命の大ピンチとなりました。朝起きると、「利子がいくらで、今の売上ではとても返済は無理だ」と頭に浮かび、とてつもなく憂鬱な日々でした。

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そんな中、「お客様が望んでいることは何か」を問い直し、決断したことは、設備が古く豪雪に耐えられない、と諦めていた本館「鶴の湯」の冬の営業です。宿への道を1・5キロ除雪し、隙間風対策に補修、水車はそのまま残し、囲炉裏で体を温められるよう山の芋鍋を用意しました。かまくらを作り、中にろうそくを灯すと、暗く寒い雪国の夜なのに幻想的で暖かい雰囲気に包まれました。翌年、冬の営業を開始すると、予想以上の予約が入り、初めて「借金を返せるかもしれない」と思いました。

平成9年に秋田新幹線が開通すると、週末だけでなく平日にも大勢のお客様が来てくれるようになりました。21世紀に入り、雪景色やかまくらを背景とした乳白色の露天風呂の写真がポスターに使われるなど、少しずつ知られるようになってきました。

振り返ると、とにかく必死でしたが、一時は「宿とは何か」を見失いかけていました。そんな時、宿を継いだ二十歳の頃には何気なく聞いていた「秘湯を守る会」の理念や先輩たちの言葉が蘇ってきました。

「数値ではなく、人の心を満足させてこそ宿なんだよ」。実に身に染み、心に響きました。

(取材・構成 朝日旅行/旅と文化研究会)

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投稿:首都圏発国内旅行担当