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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2012年06月04日

2012年6月 4日 旅なかま6月号 地図で旅する ヨーロッパ 地形図で欧州の風景を 想像する

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ミュンヘンから北西へ約110キロ、バイエルン州の西に位置するネルトリンゲンの町は、実にいい形をしている。この町を訪れたことのない私が、地形図で眺めた感想だ。北東を向いたきれいな卵形をしていて、明瞭な楕円の囲みは城壁である。この城壁は日本の「国鉄記号」を細かくしたような記号で描かれているから「現役」で、その外側は空堀になっている。城壁の外側は記号によれば草地であるから、おそらく昼休みなど人で賑わうのだろう。

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そこから旧市街へ入るには城門をくぐり抜ける必要がある。城門は道路と城壁の交点にある○印だ。町の中心にある記号は「1本の塔をもつ大教会」で、聳える聖堂の周囲はちょっとした広場で、きっと市場が開かれている。内側に見える楕円(というより卵形)の小さな円周道路は古い城壁だ。町はカロリング朝の898年に文献初登場という長い歴史があり(1998年に開市1100年を祝った)、当時の市街はこの城壁内だけだった。それが市場町|交易都市として発展して手狭になり、1327年に現在の城壁が築かれたという。市街地は約4倍に拡大した。
 ネルトリンゲンは「中世都市」として日本のガイドブックでも紹介される存在であるが、当然ながら近世以降にできた部分もある。城壁の外側がそれで、緑の網かけで表される戸建てのゆったりした敷地の「お屋敷街」が南西部に広がり、等高線でそれとわかる小高い丘には墓地や森。そのあたりに上れば、見渡す限り起伏して続くパッチワークのような畑と、その中をまっすぐに延びる単線の鉄道が一望の下であろう。

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図2も同じドイツで、蛇行の目立つモーゼル川流域。袋のように曲流した南端にはトラーベン=トラーバッハという小さな町があって、モーゼル川に面した斜面は無数の「タテ棒」で表現されたブドウ畑。もちろん一帯はモーゼルワインの産地で、地形図を彩る優美なモーゼルの「曲線美」と、昔ながらのワインケラーが並ぶであろう家並みを見ているだけで、あの濃緑色の壜に詰まった甘い香りを思い浮かべてしまう。地形図の色彩もそれを彷彿させるに十分な深い色づかいで、その味わいを助けてくれる。

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図3はずっと北へ飛んで、イングランド北西のレイク・ディストリクト(湖水地方)と北アイルランドの間に浮かぶマン島。日本でいえば淡路島くらいの大きさのこの島は単なる離島ではなく、英国本国や英連邦にも属さない「王室属領」という不思議な体制で、通貨も「マンクス・ポンド」が使われるなど独立性の高い「島国」である。
 その7.7万人ほどの島の第2の都市(といっても7千人余り)がラムジーだ。町の西には「1079」と年号を記した古戦場の記号があって悠久の歴史を感じさせるし、その北側にはイギリスの地形図特有の表記である「廃線跡dismantled railway」も。とにかくイギリスの5万分の1は歴史と観光の付加情報が充実している。

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ラムジーの中心には島で最大の都市ダグラスを結ぶマンクス電鉄の終着駅があるが、図の鉄道名に青く網掛けしてある通り、この電車そのものが観光資源だ。起伏に富む地形を縦横に急カーブしていくコースは、図で眺めているだけで乗ってみたくなるもので、森林がほとんどないから(図でわかる)、高い丘の上からの海の眺めは絶景間違いなし。途中下車して東のマコールド岬Maughold Head(マコールドという読みが正しいかどうか疑問だが、いずれにせよ島の聖人である)へふらりと散歩に行けば、青いパラソル型の「眺望良し」記号の断崖の上にも出られる。
 一度も行かずに紙の上からそんな風景を想像できるのが、市街図などとは違う「地形図topographic map」の強みである。空港のキオスクで地形図はあまり見かけないが、ドイツやイギリスなら一般書店でも普通に売られているので、ひと味違う旅を実現すべく、試しに地形図を片手に歩いてみてはいかがだろうか。

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投稿:朝日インタラクティブ