出発地を選択してください。出発地はいつでも変更できます。
出発地を選択してください。
×
MENU

機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2013年01月07日

2013年1月 7日 旅なかま1月号 新春巻頭インタビュー 今年はもっと、 名画に親しんでみませんか。

〔本稿は会員誌『旅なかま』2013年1月号に掲載されたものです〕
ご新規のお客様には見本誌を無料でお送り致しますので、こちらのフォームからお申込みください。その際、「旅なかま1月号希望」とご記入下さい。なお、部数に限りがございますので、お早めにお申込みください。

pickup_2013_01_kantou_title.jpg pickup_2013_01_kantou_title2.jpg pickup_2013_01_kantou_stitle01.jpg

鹿野:先生はご専門がルネッサンス美術ですので、そのあたりからお話をお聞きしたいのですが、絵画といえば、やはりイタリアでしょうし、ヨーロッパのどの国の美術館に行ってもイタリア絵画は、展示の中心的な存在です。ダ・ヴィンチを初めとするルネサンスの巨匠たちが活躍した時代をクワトロチェント(15世紀)といって、天才たちが次々と現れた時代で、その背景には経済的繁栄をベースに多くのパトロンたちの存在が欠かせません。それにしてもイタリアの一地方都市フィレンツェという小さな街で、どうしてあれだけ多くの天才たちがほぼ時代を拮抗して現れ、歴史上に残る輝かしいルネサンス時代を築いたのか、先生は、どのように思われますか。
塚本:ルネッサンス時代というのは、イタリアが一つの国ではなく、都市国家のようにフィレンツェ、ヴェネツィア、ミラノなどが各都市を中心に小さな国を形成していて、それぞれが都市の芸術文化を持っているわけです。その結果、各都市でかなり色合いの違った芸術作品が登場してくる。そのバリエーションというのがルネッサンスの一番の魅力になっていて、ひと色でもって語ることができないのですね。フィレンツェの場合、浮彫コンクールなどを開催して、美術批評の精神風土が豊かで、そこに古代美術が復興して多くの天才が出現します。
鹿:しかし、一方でそれは世界の名画として残るような普遍的なものでもあるわけですよね。
塚:そうですね、やはり、都市国家の中で巨匠達が切磋琢磨して、他の都市の美術と違うものを作り上げたいという思いが一方であるわけですから、芸術がどんどん洗練され名品になっていくのです。特にフィレンツェの場合にはメディチ家が、経済的文化的なバックボーンになっていますから、芸術への支援によってたくさんの画家達が登場して、パトロンや学者との芸術的交流が深まり、時を超えるような名作が15世紀にたくさん生まれたということなのでしょうね。
鹿:メディチ家は君主としてだけでなく、芸術の庇護者としても有名ですが、都市国家の君主たちはそのままパトロンというか・・・。イタリアではありませんが、あのハプスブルク家の歴代の君主たちも芸術を保護したわけですけど、君主や貴族たちが美術を庇護したのは、ひとつのステータスでもあったのでしょうね。

pickup_2013_01_kantou_ph1.jpg

塚:イタリアの場合は、他の国に比べると経済的に力のある名家が同時に芸術好きなのですね。経済的な力を投入するときに、建物を建てるとか都市のインフラを造るということ以上に、芸術家の方に資金を投入して名画を描かせる。世界中を見渡せば、経済として成り立って豊かになってくると、ただ富だけを追求して自分の宮殿なり、そういう自分の周辺だけを豊かにすることが多いわけですが、イタリアの場合は、メディチ家でもゴンザーガ家でも莫大な資金を惜しまず絵画や彫刻に投入し、それがヴィーナスの名画のように歴史に残る普遍的な名作になっていっているわけです。あと同時に、コレクターというか、見る側の目も大変肥えていたのでしょうね。つまり受け手の側の市民達も芸術的な資質が豊かで、コレクターのサイドでも確かな審美眼によって、名画を集めていく。その結果、ボルゲーゼ美術館のような珠玉の名画の美術館ができあがるわけです。

pickup_2013_01_kantou_stitle02.jpg


鹿:ところで、実際に美術館へ行って絵画を鑑賞する時に、よく「自分がいいと感じたものをいいとすればよい」という直感での鑑賞を、先生はどう思われますか?

塚:専門家であっても、普通の方であっても、こういう作品が好きだとか、こういう画家に関心があるというのは、自分の今までの経験からそうなっているだけだと思います。私がツアーを組む時にもちろん関心のある美術館や教会を入れますけど、そうではなくて未知の世界、観たことのない絵とか教会を何割か混ぜるわけです。そうすると、自分が普段関心をもっていないものに触れて急にこういう世界もおもしろい、と思うことが毎回多いのです。自分がこの美術を好きだとか、興味があるというのは、自分を制限しているところがありますので、時には知らない、観たことない分野や画家に対しても時間の余裕をとって観るようにすると、幅が広がって面白いと思うのですが。つまり計画性を持って見学しながら、ときには直感もはたらかせることが大事です。
鹿:そして前もって知識を入れておくべきですか?それとも先入観なく観るべきですか?

pickup_2013_01_kantou_ph2.jpg

塚:いつも思いますのは、オランダ美術とかイタリア美術とか、大枠として知っておくことはとても大事だということです。ただ大枠の中にいろいろな画家がいるわけですから、自分の興味のない分野に対してもある程度、幅を持って観るとよいでしょう。例えば、フェルメールというのはとても日本で人気がありますが、オランダの美術館に行きますと、フェルメールの隣にピーテル・デ・ホーホという素晴らしい画家の作品があります。誰もがフェルメールの作品に近寄って観ますが、実はホーホの作品の中には、オランダの日常生活がよく現れていて、17世紀という時代をフェルメール以上に感じ取れるのです。フェルメールが時代を超えて永遠を見せるとすれば、ホーホは彼の時代そのものを見せてくれるのです。ある程度、特定の巨匠の作品にどうしても目はいくのだけれども、ちょっと美術館の脇にある、同じ系統のものでもいつも観ないようなものに視線を移してみると、世界が広がると思うのです。

pickup_2013_01_kantou_ph3.jpg

鹿:実際に美術館の中に入ってみると、大体は年代順というか、古い作品から展示が始まりますが、先生は最初からずっと順に観ていくほうですか。それとも、観たい絵から観にいかれますか。我々が、お客様を美術館にご案内するときに、お目当ての作品だけを観るのもどうかなと・・・。そのへんはどうですか。
塚:欧米の美術館は、年代順にみせようというところと、バチカンやルーブルのように名作の周りに小品を並べるというスタイルと、美術館によってそれぞれ違いますね。宮殿にある美術館の場合には、メインのほうから観ていって、そこから周りを観て行ったらいいでしょう。ただ、年代順に整理されて並んでいる美術館、例えばミュンヘンのアルテピナコテークでは、古い時代から観ていくと、美術の発展がわかりますから、あまり飛ばさずにできるだけ時代順に行った方がよい気がします。時間が短いからと、あまり名作だけをチョイスして観たりすると印象が希薄になって、美術の歴史は頭に残らないですよね。私が美術館で一番楽しみにしているのは、中世からルネッサンスにかけて、聖母マリアやヴィーナスに人間性や動きがでてくるなど、時代の推移が絵の中に観えてきた瞬間なのです。ウフィッツィ美術館は典型的で、短時間で鑑賞しなければというと、ざっと途中飛ばしてしまい、ヴィーナス誕生のところからガイドが話すことがありますが、やはりシエナ派など中世絵画を少しでも観てからヴィーナスのところへ行くと、ルネッサンスになるとこんなに人間の表現が変わるのだな、ということが明瞭にわかると思います。

pickup_2013_01_kantou_stitle03.jpg

鹿:どんなにインターネットや印刷技術が進んだとしても、本物を直に観るのと、画集や画像を観るのでは、何が一番違うと先生はお感じになりますか?
塚:それは、名画があるところというのはその場所が「名画の雰囲気を持っている」ということですね。テレビとかインターネットとか、画集とか、名画だけをチョイスして写すわけでしょう。今は画質もいいですから細部も見えるのですが、いつも感じるのは、名画があるところというのは似たような名画が隣にあり、部屋の内装もちょっと渦巻き型の模様があったりして、名画の芸術性に相応しい飾りや雰囲気があるわけですよ。名画を味わうときには、その環境全体の中で観ているという気が私はしますね。
鹿:そうすると教会に飾っている絵なんていうのは典型的ですね!
塚:そうです、そうです!イタリアというのはいわゆる祭壇画が多いのですが、それは教会の中にあることによって意味を持つわけです。例えば日本の美術館にその祭壇画を一点はずして持ってきて、平らな天井で蛍光灯の光の下で見るのでは、その祭壇画の宗教性というのは、なかなか伝わってこないでしょう。教会の持つおごそかな雰囲気が、その祭壇画と共鳴し合っているわけですから。
鹿:美術展でも、最近よく空間ごと持ってくる、というのがありますが、それはそういうことなのでしょうね。
ところで、美術に親しんでいる方は別として、これからという方にどんな見方をすれば、楽しめるのかさらにアドバイスをお願いします。

塚:やはり最初にヴェネツィアとかフィレンツェとか、多少は歴史的な美術の流派というものを少し勉強されて、その流派のものを観るようなことで行くと、楽しくなるのでないかと思います。
鹿:日本ではやはり19世紀のフランス印象派の作品が人気ですが、どうして宗教画は敬遠されがちなのでしょうね。
やはり、西洋絵画の中心のテーマはキリスト教や神話が多いですが、そういう知識をやっぱり知っておくか、おかないかでは大きいと・・・

塚:私がみるところ、印象派とフェルメールあたりがすごく人気があるというのは、結局ほとんど室内か風景かであって、聖ヨハネなりマグダラのマリアは出てこないわけですよ。予備的な知識なしでも、室内に光が入ってきて、女性が手紙読んでいると、美しい絵だな、とストレートにはいってくるのですね。しかし、フェルメールより前の段階、カラヴァッジョなりレオナルドの時代ですと、半分以上は聖書がテーマだったりしますからね。カルチャーセンターで人気があるのは、キリスト教やギリシャ神話の美術です。これをテーマ別にお話すると、名画の一つの入り口になります。日本人からすると、風景画はわかるけど聖母子とか聖ヨハネとか、聖書のテーマになると急にわけがわからない、というのが一般的には多いかもしれません。よく画集で、同じ題材で違う作家の作品を集めたのがありますが、「受胎告知」なんていう絵はどこにいってもあるわけですけど、画家によって表現が違うわけです。フェルメールより少し遡って、キリスト教の知識を少しでも持って入っていったら、特にヨーロッパ絵画がもっともっと楽しめるようになると思います。

pickup_2013_01_kantou_ph4.jpg

鹿:それから、例えばフェルメールなら作品が少ないということも人気の理由でしょうか。ルーベンスなんかはヨーロッパ中のどの美術館に行ってもありますし、観ている間にお腹いっぱいになってしまいそうな気がするのですけど。やっぱり希少価値というのはあるのでしょうか?
塚:いつも思うのは、フェルメールとティツィアーノという比較です。フェルメールは世界中に30数点、ティツィアーノは300点以上あるのです。しかし、ティツィアーノの名作というのは、フェルメールと比較しても見劣りしないばかりでなく、ヴェネツィア絵画としては、ずば抜けて素晴らしいですよね。私の考えでは、点数が少なくて希少価値だからという問題は、芸術のエッセンシャルな部分ではないだろうと思います。ルネッサンスで作品の点数が多く、しかも質も高い画家もたくさんいる。ティツィアーノを観ると、長い生涯で絶頂期がいくつかあって傑作ぞろいです。しかし、フェルメール以上に作品が世界中に散らばっていて、まとめて観るのがむずかしい画家です。

鹿:ティツィアーノですか。何となく気になっていた画家ですが・・・ありがとうございました。まだまだ話は尽きませんが、最後に自由時間にパリとロンドンで、ぜひ足を運んでもらいたい美術館がありましたら教えてください。

pickup_2013_01_kantou_stitle04.jpg

塚:パリでしたらオランジュリー美術館が、すっかり改修が終わり、素晴らしく生まれ変わりました。前はモネが中心だったわけですけど、現在はピカソとマチスが地下にずらっと並び、その先にエコール・ド・パリ、ドランの部屋、マリーローランサンの部屋や、セザンヌの静物画やルノワールもあるし、好きな画家にきっと出会えるのではないでしょうか!ルーブルのように大きな美術館ではないですけど、珠玉の名画が集約され、洗練された良い美術館だと思います。それとちょうどペアになるのが、ロンドンだったらやっぱり新しくなったコートールド美術館ですね。大英博物館が古代美術、ナショナルギャラリーがルネッサンスやバロックで、昔から近代美術館がロンドンにはなかったのです。ロンドンにもそうした近代美術館をということでできたのが、コートールドです。ルノワールとかセザンヌ、マネの傑作「フォリーベルジェールの酒場」もありまして。最初の部屋に、そんなに有名なものではないけれど、中世やルネッサンスのイタリア絵画もあるのです。ですから、ルネッサンスから近代まで楽しめます。建物がまた、お洒落にできていまして、ロンドンの中では異色の美術館ですね。

pickup_2013_01_kantou_ph5.jpg

鹿:美術作品とともに雰囲気も楽しめると。
今日はたいへん勉強になりました。ツアー中、もし自由時間があったら、ぜひ美術館に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。本日は、ありがとうございました。

pickup_2013_01_kantou_prof.jpg

◆関連ツアー◆
塚本博先生同行解説
ヴェネツィア美術とティツィアーノ展見学 11日間

投稿:朝日インタラクティブ