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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2018年03月09日

<前編>旅のサイドストーリー ~旅人の心に添う 秘湯は人なり~

 

”秘湯”という造語はこうして生まれました」

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佐藤好億さん
二岐温泉大丸あすなろ荘
(日本秘湯を守る会名誉会長)

日本秘湯を守る会の会合にて

日本秘湯を守る会の会合にて

秘湯の宿を支えているのは、様々な個性的な主人。温泉宿文化の「伝承者」ともいえる主人たちに話を聞いていきます。第一回は、日本秘湯を守る会の立ち上げ時から携わってきた佐藤好億さんです。

 

日本秘湯を守る会名誉会長
佐藤好億さん

「日本秘湯を守る会」を立ち上げるきっかけは、ある人との出会いでした。

私は江戸時代から旅籠を営む福島県の「大丸あすなろ荘」に七人兄弟の四男として生まれました。会津と中通の境界に位置する、ブナ原生林に囲まれた二岐温泉郷の小さな温泉宿です。茅葺き屋根にダルマストーブ、お客様は地元の農家の人がほとんどでした。山深い小さな温泉宿の経営は、雪かきから掃除、修繕、炊事、接客、お金の計算まで全て主人が行わななければなりません。家業を継ぐつもりなどなく都会に出て、大学講師の道を選んだ私がここに戻ってきたのは、昭和四十五年のことでした。

当時は高度経済成長時代で観光の大衆化が進み団体旅行が真っ盛り。歓楽街のある人気温泉地では、昔ながらの旅籠は大型旅館や高層ホテルに次々と姿を変えていきました。銀行も大型宿泊施設には積極的に融資をするものの、ひなびた田舎の一軒家には救いの手を差し伸べてくれません。相談する相手もほとんどおらず、時代に取り残されたような小さな宿をどうしたらよいのかアイデアが無い状況が続きました。

そんな中、同じような山里の一軒宿の主人と話す機会があり、日本の秘境や山奥にぽつんと生きている小さな宿で集まり、共に生き延びるために何かできないかという話になりました。それが「日本秘湯を守る会」の原型だったと思います。

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まずは旅行会社と提携を、ということで、様々な大手旅行会社に話を持ち掛けましたが、そこでは、「バスも入れないのですか?」、「宴会場もないのですか?」と、けんもほろろに断られ、「団体客を受け入れられないなら旅館とは言わない」とまで言われました。

途方に暮れる中、私たちに唯一手を差し伸べてきたのが、その「ある人」の故岩木一二三さん。朝日新聞社傘下の朝日旅行会(現朝日旅行の前身)の創業者です。

話を聞いてもらえるとのことで、朝日旅行会の事務所を訪れました。東京の秋葉原駅前の雑居ビル、薄暗く狭い階段を上がると、眼光鋭い岩木さんが待っていました。そこでいきなり浴びせられたのが、「君たちのやろうとしていることは表面的な商売だ。人は何のために旅に出るのか、考えて見たまえ」でした。この態度にも驚きましたが、なにより内容が衝撃でした。色々な旅行会社を回りましたが、話にあがるのは部屋数、宴会場、バス用駐車場のことなど、団体旅行の受入体制に関することばかり。ビジネスなら当然でしょう。しかしながらこの薄暗い事務所で、旅行会社の人間から「旅とは何か、宿とは何か」という哲学的な問いかけを受けるなど、よもや予想がつきませんでした。

初対面の日、朝日旅行の岩木さんに衝撃的な言葉で迎えられてからというもの私たち、山里の一軒家の宿主たちは、その後はまるで岩木学校の生徒にでもなったかのように、彼の旅と宿についての哲学に惹かれていきました。

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 「人が旅に出るのは、迷ったり不安を抱えていたり、何らかの癒しを求めている。それを人の情けで応え、元気にして日常に戻してくれるような宿にしてくれないか」

「経営的な実績や数字ではなく、人の心を満足させてこそ宿」

「宿や温泉は単なる宿泊施設ではなく地域の最大の文化財、そのためにはその地域の自然を守って日本の原風景を守ること」

「将来は大型団体が来なくなる日が来るから、他の旅館のように部屋をいたずらに増やさず、身の丈に合った宿の規模で、訪れる人にきちんと向き合い、人間性を求めるような宿にしなさい」

色々な教えを乞いましたが、今考えるといずれもそこに必ずあるのは「人」でした。高度経済成長時代、商業ベースに基づく大量送客、大型旅行といった時流へのアンチテーゼだったのでしょう。その考えは、どこかに置き忘れてきた旅の本質や人間性を求める旅を追求するものでした。そしてそれに応える宿を提供できるのは、まさに私たちなのではないかという熱い気持ちにさせてくれたものでした。

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時代に取り残され、旅行業者や銀行も見放すような小さな宿であるわたしたちは、ここで進むべき道が見えてきたような気がしました。更に岩木さんは、「秘湯」という造語を生み出し、それを私たちに与えてくれました。日本秘湯を守る会の理念「旅人の心に添う 秘湯なり」はこうして生まれたのです。(つづく)

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日本秘湯を守る会の会員宿に宿泊するツアーをご紹介します。

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投稿:WEB管理担当