朝日サンツアーズ
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旅なかま 7・8月号

光と海のトポスを訪ねて


都市の地中海
法政大学教授 陣内 秀信氏に聞く(前編) 

 地中海世界では古くから様々な都市文明が発達し、それぞれの都市は、その歴史や文化・宗教によって独特の魅力を持っています。
 イタリアを始め、地中海世界各地の都市事情に精通している陣内秀信先生より、先生の著書タイトルでもある都市の地中海をテーマにお話をお伺いしました。



古代を受け継ぐ聖なる島 サルデーニャ


インタビュー時の神内氏●先生には今年3月に弊社のサルデーニャ島への旅行で同行解説をお願い致しましたが、先生自身、サルデーニャにすごくのめりこんでいらっしゃるとお聞きしております。まずはサルデーニャの魅力について教えてください。

陣内 歴史が他の地域より遥かに古く、魅力溢れる地方なんだけど、殆ど知られていない、イタリア人でさえあまり知らない場所です。しかし、実際訪れてみると、色々なものがあって、特にヌラーゲと呼ばれる石の塔がたくさん残っています。紀元前1500年からローマに滅ぼされる紀元前4世紀までの高度な文明によって作られた建造物で、現在も7000個残っています。

●サルデーニャ島以外にヌラーゲは無いのですか?

陣内 こんな大きな、しかも内部空間まで見事に作られているのはここだけですね。さらに、それ以前の先史時代のストーンヘンジのような巨石文化もあります。
 また、キリスト教時代のものでは、聖なる場所を受け継いだ田園の中にポツンと教会が建っていたり、至る所に聖なる井戸が残ったりして、そこが重要な信仰の場になっています。自然の大地の上に人間が創り上げてきた居住文化というのがずっと見られるんです。ヨーロッパではルネサンス以後の合理主義のもと、大地が持っていた本来の力が失われていくような気がするのですが、ここでは古層が連綿と受け継がれていて、彼らの生活空間の中に見てとれます。大地と共に生きる「羊飼いの文化」が持続しているのです。驚くのは今もホント羊飼いが多いんですよ! それぞれの家族が200頭ずつぐらい飼っている大変な財産家で、一つの企業のような感じです。先日の旅行では春の良い時期に訪れたため、緑の牧草地が一面に広がっていました。あれだけたくさんの羊が養えるのも、自然の恵みがあってのことだと納得し、同時にこの島は豊かな自然の力がベースにあるのだと実感しました。

●シチリア島のように世界史上での様々な建築物が見られる島とは、ある意味対照的で、まだわからない所だらけという所が面白いですね。

陣内 そうですね。シチリアは古代ギリシア・ローマ時代がベースなので、ヨーロッパの人にとっては古典な訳です。だから、しっかり研究されています。一方、サルデーニャはもっと前のヌラーゲ、先史時代が重要。つまり、サルデーニャの方がシチリアよりずっと古くから地中海での交流があり、先進的なものを作り上げていたのですよ。ただ、歴史の記述から消えてしまっただけで。この点については、現在は歴史の再解釈が進んでいるようです。

●先生にとって、サルデーニャ島は宝の山という感じですね。弊社でも、秋からサルデーニャ島の旅行を予定しておりますから、ぜひ皆様にも行って欲しいですね。



ヴェネツィアとアドリア海沿岸


●さて、「地中海の都市」ということでは、先日私はクロアチアへ行き、アドリア海沿いの綺麗な街々を見てきました。どこもヴェネツィアの影響なのか、似た感じの街並みが海岸線沿いに続き、ここが貿易の航路だったのだと視覚的にわかる場所でした。先生も以前アドリア海へ行ってらっしゃいますよね。

陣内 それも朝日サンツアーズの旅行でしたよね。このあたりは、内陸から海に向かって走る程に自然や地形、特に街並みが変わっていきます。内陸部はオスマン帝国の影響が強く、モスクが多い。また、所々には正教の教会もあります。モスタルという内陸の美しい街では、モスクとキリスト教の教会が並存・共存していました。そしてアドリア海沿いに行くと、完全にイタリア的。ここは古代からイタリアと共通した文化を育んできた場所でした。
 この地域を訪ねて、いくつか納得したことがあります。ヴェネツィアは外敵の侵入から島に逃げ込んで作った街ですが、それは非常に特殊なことかと思っていました。しかし、アドリア海へ行くとそんな街はいくらでもある訳ですよ。激動の中世初期に、異民族の侵入から逃れて、安全な岬の先端とか島へ逃れて都市を作るのが当たり前だったとよくわかりました。ドゥブロブニクもそうですね。そういう意味で、ヴェネツィアと成立の歴史、背景が共通している地域だなと思いました。
 また、ヴェネツィアは都市の成立後、自分達のスタイル、独特の空間を形成していくのですが、そこにはアドリア海側からの影響もあったんですね。クロアチアにスプリットというディオクレティアヌス帝の隠遁地があります。この街の海に面した外観からインスピレーションを受けて、ヴェネツィアのカナル・グランデ沿いに建つ商館のファサード、連続アーチや塔などが作られていったといわれています。そして、その後ヴェネツィアの方が力を付けていくと、今度は逆にアドリア海の街々に影響を与えていくのです。ヴェネツィア・ゴシックの華麗な建物が海沿いの街に建てられていきます。
 ドゥブロブニクにもヴェネツィア風の建物が多数建っているんですが、以前訪れた際、現地のガイドさんは言い張るんですよ。「ドゥブロブニクは独立を維持していたのだからヴェネツィアからの影響は無い」って。僕からすればどう見たってヴェネツィア風なのに(笑)。両者の交流は濃密なんだけど、ドゥブロブニクは独立を維持していたプライドがある。そのためか、ガイドさんが言い張っていたのが面白かったですね。



迷宮都市の魅力


フェズ全景●先生はいろいろな著書の中で、「迷宮都市」の魅力をお書きになっていますね。そこで、迷宮都市の代表とも言えるモロッコについてのお話を聞かせてください。

陣内 モロッコの街は究極の迷宮都市ですよね。フェズは渓谷の斜面に発展した、立体的な迷宮都市。一方マラケシュは平坦で二次元的だけど、ものすごく複雑。袋小路の長さがすごい。100〜150mぐらいずっと曲がりくねって進んだあげく、結局行き止まりなんていう袋小路があるんです。住みにくそうなんだけど、実際は沢山の人が住んでいて、落ち着いたコミュニティーを形成している。よそ者が入ってこない、安全で平和、家族のプライベートを保てるということで、居心地の良い空間となっているんでしょうね。

●これはアラブ独特の文化ですか?

陣内 いや、アラブだけでなく、ヴェネツィアだってそうですし、地中海全体が遺伝子的に持っている共通した構造のような気がします。彼らは古い時代から、コミュニティーを守るために知恵を発揮してきました。長い歴史の中で、敵から攻撃されるのは勿論、よそ者が入ってきてプライバシーを侵害されることを嫌う、という発想が強かったと思います。

●そういう意味では中庭式というのは、典型的な空間なんですね。

陣内 中庭式住宅は家の様子は外から見えない。内側に豊かな空間を持っていても、外へは派手に宣伝しない。ひっそりと中で豊かに暮らしているわけですよね。




栄光のコルドバ



●ところで、弊社ではアンダルシアの迷宮の街コルドバを取り上げて、12月初めにメスキータを閉館後に貸切見学とコンサートを行って…

陣内 えっ!?メスキータでそんなことも出来るんですか?

●観光局の協力もあってメスキータを約3時間貸し切りでの見学が可能になりました。また、コルドバというとメスキータのみ見て帰る人が多いんですが、翌日も滞在し、いくつかのテーマに沿ってじっくり歩いてみようと考えています。2日間かけて、コルドバを徹底見学する旅行を企画中です。先生はコルドバへ行かれたことは?

陣内 ええ、何度か。コルドバはアンダルシアの代表的な街であり、歴史的にも非常に重要な場所ですよね。12世紀、アラブの文献がヨーロッパに紹介された結果、ヨーロッパ全体に知的刺激を与えた「12世紀ルネサンス」が起こります。当時はアラブ世界の方が遥かに文化が高く、コルドバはアラブとの窓口になった都市の一つでした。建築においても、アラブ式のモスクが、アラビア半島から伝播し、アンダルシアにそのまま入っていくんですよね。メスキータは柱がユニットを繰り返し並ぶ形式、列柱ホール式って言うんですけど、そういうアラブ的なモスクの最も典型なんです。しかもあんなに内部空間が大きいのはコルドバだけ。本家のアラブ世界にも無いんです。モスクの建築として圧巻なんですよ。また、王宮もキリスト教徒の王様になってから作られたものですが、ムデハル様式でアラブの文化がキリスト教になってからもずっと持続する訳ですね。その面白さがある。
 もちろん住宅にはパティオがいっぱいあって、今でもかなりの人々が生活しています。あれはまさにアラブと共通した文化。さらにアンダルシアでは、白く塗った外壁にも花を飾ります。アラブのスタイルを保ちつつ、それが緩やかに変化しながら今も使いこなされている。本来、内部を美しく飾るための道具が段々と外にも溢れ、観光的にも優れています。緩やかな変化の中で、洗練されていき、内部だけの美しさだったものをチラッと見せる訳ですね。アンダルシアならではの魅力ですね。
(聞き手/企画・営業部長 鹿野 眞澄)

コルドバのパティオ(スペイン)
↑コルドバのパティオ(スペイン)

コルドバ(スペイン)
↑コルドバ(スペイン)
 

  海外で精力的なフィールドワークを続ける陣内先生ならではの興味深いお話しは多岐に渡り、非常に充実した内容となりました。
 次回、後編では、イタリアへ戻って南部と中部の都市、そして再び旅行が可能となったトルコへと続きます。ご期待ください。


陣内 秀信 陣内 秀信氏(じんない ひでのぶ)

プロフィール
法政大学教授。専門はイタリア建築・都市史。日本におけるヴェネツィア研究の第一人者であり、また地中海を中心に世界を歩き、鋭く、かつ温かな眼差しで都市の魅力に迫る。
主な著書に、「都市の地中海」(NTT出版)、「ヴェネツィア―水上の迷宮都市」(講談社)、「シチリア―《南の再発見》」(淡交社)など多数。

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