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特集 秋の彩り
石積みの島 アラン諸島
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アラン諸島はアイルランドの西のゴルウェイ湾の入り口を塞ぐように並ぶ三つの島である。南から小さい順に、イニシュイール、イニシュマーン、イニシュモールという。これらの島は湾の先端のゴルウェイの町からは48キロ近く離れているが、イニシュイールは対岸のクレア州のドゥーリーンから、イニシュモールはコネマラのロサヴィールから、それぞれ10キロ前後、一時間ほどの船旅である。一番大きい島、イニシュモールが長さ約15km、巾が一番広いところで、約4kmの大きさである。
伝説によれば、ゴルウェイ湾は昔は湖で、現在のアラン諸島は陸続きだったのだが、大西洋の荒波による侵食によって、本土から切り離されて島になったという。それを裏付けるように、アラン諸島の地質は、対岸のクレア州のバレン高原の地質と同じ、炭素を含む石灰岩の敷石状の岩盤からなっている。そしてこの殆ど土のない大地に、アランの人々は先史の時代から、石を根気よく積み上げて石の文化を築いてきた。島のいたるところにその痕跡を見ることができる。
なかでもイニッシュモール島の西南にある、海から約百メートルに切り立った岸壁の上に、大西洋に向って開かれた半円形の城砦、デューン・エンガスは圧巻である。中央の美しい半円形の内壁も、それを囲む二重の外壁も、すべて一つ一つしっかりと石が積まれている。この城砦は約5000平方メートルの広さがある。この城がいつ、だれによって、何の目的で作られたものかはわかっていない。しかし城砦の中央に立って、果てしなく広がる大西洋を見ていると、古代の人々の心にとけ込んでいくような気持ちになる。
アラン諸島は5世紀にアイルランドにキリスト教が伝来して間もなく、キリスト教文化が栄えたらしく、僧院の石積みの廃墟もそこかしこに見ることができる。また、農民たちがそれぞれの農地を仕切るために作った石積みの塀は、アラン諸島の風物詩として、多くの写真家や、画家の被写体になってきた。アラン島の人々は僅かばかりの農地を他人の農地と仕切るため、また飼っている牛が逃げないようにと、自分たちの背丈にも近い塀を作った。彼らは岩盤の上に散らばる石や岩を取り除き、その表面に海草やわずかばかりの土を広げて、農地を作るのだが、その石や岩を積み上げて塀をつくる。モルタルを使わずに積み上げていく方法は、デューン・エンガスの砦の石積みと同じ方法である。石と石との間に出来るすきまは風通しをよくし、同時に風に耐える力を与える。張り巡らされた石積みの塀は迷路のようであり、石と石との透き間を抜ける風のヒューヒュー鳴る音は、アイルランドの伝統的な楽器イーリアン・パイプの音に似ている。
石と岩の大地にへばりつくようにして農地をつくり、カラハという小船にのって、荒海で漁をして生計を立てていたアランの人々は、西の最果ての不毛の地に暮らすものとして、日本でも度々紹介されてきた。しかしアランの人々はこうした石の無機質な環境の中で、実に豊かなゲール(ケルトの伝統を残す)の文化を育んできた。彼らはアイルランド語で物語を語り、伝統的な音楽を楽しんできた。アラン島からは、多くの作家や詩人、伝統的な音楽奏者が輩出している。また海に出て行く漁師のために、女たちが編んだアランセーターや、つい半世紀前まで女たちがきていた、ペティコートといわれるスカート、その上にはおった色とりどりのショールは、灰色一色の岩と石の大地に彩りを添えてきた。
そしてまた、自然も苛酷すぎるということはない。大西洋沿岸を流れるメキシコ暖流がもたらす暖かい湿った風は、城砦のテラスに、石積みの塀の透き間に、愛らしい花々を咲かせる。
こうした暮らしに魅せられて、19世紀の終わりごろから、多くの文学者や画家たちがアラン島を訪れ、島の暮らしを紹介するようになり、アラン島はアイランドの数ある島の中で、最も有名な島になった。島の人口は三島あわせて1500人ほどだが、島は観光客でにぎわっている。しかしそれは島の中心部のことで、ちょっと外れたところを歩くと、ハッとするような風景や、忘れられたような廃墟に出会ったり、古い石積みの塀の小道に出くわすだろう。そしてそんなところでは、ひとなつこいアランの人が話しかけてくるかもしれない。船が出るまでに時間があったら、ゆっくりと島を歩いて、自分のアラン島を探すのも楽しみの一つである。
渡辺 洋子氏(わたなべようこ)
アイルランド伝承文学研究家、朝日カルチャー千葉/講師、
イアシル・ジャパン会員(国際アイルランド文学協会 日本支部)
英語を教えるかたわら、アイルランドの民話、古い伝承の物語を研究している。
共著/『子どもに語る アイルランドの昔話』こぐま社
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