タスマニア島の野生植物を訪ねる
登山家・植物学者 大内尚樹
珍しい植物が多いオーストラリアの中でも、更に独特な固有種が多いタスマニア島。南極大陸に近いこの地を訪ねる歓びは、この島ならではの固有種に巡り逢うことにあります。
タスマニアを訪れたら先ず最初に見たいのはタスマニアワラタでしょう。ワラタとは先住民アボリジニによる呼称で、この属はタスマニアとオーストラリア南東部のみに5種が自生していますが、中でもトゥルンケータはタスマニア島以外では見ることの出来ない植物です。
こういうとなかなか出逢えないのではないかと思い勝ちですが、そんな事はなく、時季を外さなければ必ず逢える筈で、タスマニアを代表する景勝地・クレイドルマウンテンを望むダブ湖周辺でも良く見かけます。
次に観察して欲しいのはパンダニの名前で親しまれているリケア・パンダニフォリアで、何やら異星人が降り立ったような姿をしていますが、これで科の単位ではツツジ科に近いエパクリス科に属すというから驚きです。
これもタスマニア固有種で、大きな株では見辛いですがピンクの花が葉腋に隠れるように咲き、稀に白い花も着けます。葉の縁には荒い刺が鋸状に並びザラつくのも特徴で、この特異な植物もほぼ確実に見られる筈です。
同じリケア属にはもう一つタスマニア島以外ではお目にかかれないスコパリアがあります。この花はタスマニアの人気宿泊施設クレイドルマウンテンロッジ付近に咲いているので、是非ゆっくり鑑賞して欲しいのですが、この花の葉先は鋭い刺状なので注意してください。
次に紹介するのも同じ科のキアトウデス・パルビフォリアで英名はマウンテンベリー。その名の如く実に印象的な赤い実を着けていますが、花は純白。これもタスマニアの固有種でホバートの裏山ウエリントン山上部で見ることができます。
キアトウデスには他にもアビエティナ(英名ウエストコースト・ピンクベリー)、グラウカ(チーズ・ベリー)などのタスマニア固有種がありますが、これらの見分けは少々難しいかもしれません。
こうした固有種が属すエパクリス科はオーストラリアとニュージーランドが分布の中心で一見単子葉植物を思わせる平行脈や掌状脈をしている点に特徴があります。
次に紹介するのはタスマニア島の固有種ではないが大変面白い生態で知られる引金草(英名トリガー・プランツ)スティリディウム・グラミニフォリュウムで、その名のとおり昆虫が蜜を探るとハンマー状の蘂柱が飛び出し、花粉を虫の背中に発射するのです。
この蘂柱は雄蘂と雌蘂が合体したもので、ここにこの植物の最大の特徴があります。大変美しい上に珍しい動きを持った植物ですが、これもまず見逃す事はないでしょう。
次はまた固有種で英名クリスマスベルと呼ばれるブランドフォルディア・プニケア。これはこれまでの植物のようには普通に見られる訳ではありませんが、鉱山街のジーハンには大群生地があります。この花で注目して欲しいのは、花は下向きなのに実は上向きになる点です。これは鐘型の花に雨水を溜めぬ為と、風を利用し少しでも種を広く散布する為の知恵だと考えられます。
次のヘリカリスム・ミリガニイは英名ミリガンエバーラスティングで大変気品の高い固有種の名花。ローランド山群のクラウド山に比較的楽に観られる群生地があります。
次のボロニア・キツリオドラはレモンセンテッド・ボロニアの英名が示すようにミカン科。この花も実に優雅なので是非探して欲しい植物です。
まだまだ紹介した花は多いのですが紙幅に限りがあるのであとニ種、ホワイトワラタと呼ばれるアガスタチス・オドラータとやや湿潤な山地に希産するミリガニア・デンシフロラのニ固有種を紹介して筆を置きますが、日本では花の少ない冬に固有種が咲き誇るタスマニアを訪れる歓びは限りなく深く、何度訪れても新しい発見と感動に出逢います。 |