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21世紀における再現美術館の意義
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ボッティチェリの《春(プリマヴェーラ)》をじっくりと堪能した後、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》や、ピカソの《ゲルニカ》に出会い、ミケランジェロが描いた《最後の審判》を原寸大で体感できる空間を想像したことがあるだろうか。それを実現した世界唯一の場所が日本にある。私が学芸員をつとめる大塚国際美術館である。
大塚国際美術館では、西洋絵画史を代表する古代から現代までの絵画作品を、高度な技術を用いて原寸大の陶板に写した作品を展示している。通常、原作と同じ大きさで複製を作ることは禁じられているが、支持体に陶板(セラミック)を用い、作品を転写するという製法によってその隘路を断ち、原寸の名画美術館を完成したのだ。
画集やテレビなどで一度は目にしたことのある絵画作品に四方を囲まれる空間は、実際に体験していただかないと説明し難いが、美術館には他にも原寸大名画陶板の特性を活かした、さまざまな工夫が凝らされている。いわゆる「複製」という領域を超えた、この再現美術館が持つ意義について触れたい。
まず始めに、美術館では、西洋絵画の代表作1000余点を原寸大で製作した名画陶板の展示によって、原作のスケール感を目の前で感じることができる。したがって、本来ならば世界中に点在する作品を、長時間かけて巡礼しなくてはならないところ、ここではそれらを一堂に見ることができるのだ。その上、絵画作品を古代、中世、ルネサンス、バロック、近代、現代と系統的に展示した館内では、絵画がどのような変遷を辿ったかを鑑賞できる。
また美術館では、近世以前に制作された絵画作品の多くが、宗教的・公共的な役割をもつことを考慮し、それらを現地と同様、立体的な三次元空間に展示する試みも意欲的におこなわれている。例えば、中世に建造された礼拝堂を建築空間ごと再現した、スクロヴェーニ礼拝堂(オリジナルはイタリアのパドヴァにある)。グレゴリオ聖歌がながれ、宗教的な空間がもつ静謐な空気までも復元したかのような展示空間に一歩足を踏み入れると、四壁天井に隙間なく描かれたジョットのフレスコ画に取り囲まれる。両脇に設けられた長椅子に腰掛け、聖書のエピソードが描かれた壁画を思う存分楽しんでいただくことも、実は、美術館だけの特権で、鑑賞時間が制限されたイタリア現地では無理である。
最後に、h世界唯一の展示iを誇るのは、作品の「修復前」と「修復後」を対置する展示法だ。当然、原作を持つ場であっても、それは不可能なことだ。その一例を挙げるなら、レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》である。修復家が二十年以上の歳月を費やし、ようやく完成したフレスコ画は、画家の色彩を見事に甦らせている。しかし同時に、その修復と共に永遠に姿を消してしまった「修復前」の作品もまた、五百年の歴史を語る重要な文化的財産と言えるだろう。美術館では、この二作品が同じ展示室に設置され、レオナルドの作品制作時から二十世紀の修復に至るまでの、長い時間を感じることができる。更に戦争という歴史的出来事で惜しくも失われてしまった、祭壇衝立の復元もおこなわれている。現在、画家エル・グレコが制作した祭壇画用の絵画作品六枚は、複数の美術館にばらばらで所蔵されている。それが美術史家の長年にわたる研究と、多くの職人たちの技術によって、再び一つの作品として復元したのである。
このように、オリジナル作品を所有する現地でも不可能な展示を、多数みることができる美術館には、通常、美術館を訪れると必ず目にする監視員の姿や、作品と鑑賞者を隔てる柵がない。「もう一度みたいあの名画」、「いつか見たいあの名画」と出会い、間近で対話できる美術館として、皆様にも楽しんでいただければ嬉しいと思う。
和田 咲子氏(わだ さきこ)
美術史家 ・文学博士・大塚国際美術館学芸員
1972年 東京生まれ。東京外国語大学大学院修了。千葉大学大学院博士課程修了。文学博士号取得。(その間1998〜2002年にフィレンツェ大学、ボローニャ大学留学)。専門イタリア美術史。
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