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旅なかま 11・12月号

芸術家の魂と出会う至福
芸術家の魂と出会う至福
芸術家の魂と出会う至福

 芸術は映像や文学を除いて、皆、本物に触れるしかありません。特に絵画や彫刻、建築などは、写真や映像でそのものの息使いや生命を感じることは大変困難です。生の色彩、絵具の盛上りや筆使い、さらに画家のその絵に対する情熱などを感じ取ることや、建築や彫刻の周りの空間との関わりなどは、作品の前に立ってじかに観るしかないのです。美術評論家でコレクターでもあった久保貞治郎は「作品の鑑賞をするということは、その作品を造り出した芸術家の魂との対決をするということである。」と言っています。
 このステンドグラスは、十九世紀末に活躍したチェコ出身のアール・ヌーボーの画家アルフォンス・ミュシャの作品です。これはプラハのシンボル「聖ビート大聖堂」に中世の美しいステンドグラスと並んで何の違和感も無くおさまっています。ミュシャはアール・ヌーボーの風俗画家だけではなく、故国チェコヘの熱い思いを持った画家でした。彼は晩年に「私の心は残りの人生を故国のために捧げることで満たされる。」と言っています。このステンドグラスもチェコの人たちの故国への思いを凝縮しているようです。もちろん、 プラハの町は中世をそのまま保存して世界遺産になった希有の町ですが、他国に攻められても、すぐ降参して戦禍から町を守りました。プラハの人たちは「どんなに他の国に支配されても、我々はプラハ人で、侵略者は我々の心まで変えることは出来ない。」と言っています。旧市庁舎の天文時計は十五世紀に造られ、当時のままの姿で今も時を刻み続けています。
十九世紀後半から二十世紀の前半にかけて、ヨーロッパはルネッサンス期と匹敵するような美術の大変動期でした。各地に機械文明への危機感から新しい芸術運動がおこります。ウィーンでは、クリムト、エゴン・シーレ、ココシュカなどが、〈自然への回帰と人間の復帰〉を標榜し、新しい創造を目指して過去と決別するとした「分離派」(ゼ・セッション)の運動を興します。
 なかでも、クリムトとシーレは、人への愛惜を表現して観る人の心に強くせまる作品を描きました。クリムトの「接吻」、シーレの「死と乙女」(オーストリア美術館・ウイーン)、クリムトの「乙女」(ブラハ国立近代美術館)などは、二人の代表的傑作です。全く新しい表現で、身をよじるような哀しみと愛を表現しています。
今年の五月、スイスの首都ベルンの郊外に、パウル・クレーの作品四千点余を収蔵する新しい美術館「クレー・センター」がオープンしました。クレーは、たとえようもない幻想と詩情、そして人聞の哀感を、厳しい造形の中に封じ込めた画家でした。ナチスに追われて故郷ベルンに戻り、皮膚硬化症と言う難病と壮絶に闘って亡くなります。この「まだ女性である天使」は晩年に多く描かれた天使の一点ですが、そこはかとないぺーソスとせまりくる死の予感を暗示しているような作品です。ここでは、初期の水彩、代表作「パルナッソスヘ」から、最晩年の「死と火」までパウル・クレーの全貌が展示され、まさに至福の時を味わうことが出来ます。
 私の「美術紀行」の旅も皆様に支えられて今回が十回目になります。私は旅に出て、心に触れる作品に出会うと、その作品を制作した作家の精神を思い、生命をかけて創造に生きぬいた画家の魂を思って、いつもふるえるような感動を覚えます。
アルフォンス・ミュシャ
ギュフタス・クリムト
パウル・クレー
フラッチャー城



蓑輪 英淳氏 蓑輪 英淳氏(みのわ えいじゅん)
跡見短大名誉教授
画家・みのわ淳

1930年生まれ
金沢美大・油絵科卒
難波田龍起に師事、現代日本美術展、戦後美術の断面展、福井の美術・現代展、デュッセルドルフ現代美術展などに出品。シェル美術賞、丸善美術賞などに入賞。ドイツに滞在。個展・38回。武蔵野美大講師、跡見短大教授、現・跡見短大名誉教授。


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