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旅なかま 11・12月号

ラベンダーの風に吹かれて
ラベンダーの風に吹かれて
ラベンダーの風に吹かれて

 初めてラベンダーと出会ったのはいつの事だったろう。遠い昔、フランス土産にいただいた小さな匂い袋だった気もするし、美しいガラス瓶に入ったポプリだったかもしれない。いずれにしても私にとってラベンダーは、ハーブの原点であり、「香り」というものに興味を持つ起源である。すべては、ラベンダーから始まった。
 ラベンダーの原産地は、スペインからカナリア諸島、地中海沿岸といわれ、ローマ時代の本草書には、「煎じ汁は胸部の痛みに効き、解毒剤にしても有効」とある。ラベンダーの名は、ラテン語のlavoが語源ともいわれ、「洗う」という意味がある。その名の通り、沐浴の後ラベンダーの束で体をたたいたり、ラベンダーの株の上に洗ったハンカチなどを広げて干して香りをうつしたなど、洗うことに関連したエピソードをたくさん持つ。
 現在ラベンダーは、主として香料用、他ハーブティー、ポプリ、ドライフラワーといった市場に向けて生産されている。主な産地はフランス南部、ブルガリア、ロシア、オーストラリア、中国など。産地ごとに品種が異なり、また同じ品種でも産地が違えば香りは異なる。数ある産地の中で、最も色鮮やかで香り高いラベンダーを生産しているのが、南仏・プロヴァンス地方である。
 7月初旬から中旬、マルセイユから地中海沿岸やコートダジュールと呼ばれるあたりを訪れると、町のあちこちでラベンダーの株を見かける。明るい太陽、真っ青な空と乾いた空気に、何よりもラベンダーはよく似合う。しかし、同じマルセイユからアルプスに向かって北上し、いわゆる奥プロヴァンス地方に入っていくと、今度はラベンダーが畑となって現れる。しかもひとつやふたつではない。ワインの産地で見かけるブドウ畑の光景のように、紫のカーペットがあちらこちらにひしめいている。それはもう、夢のような風景だ。
 プロヴァンスはラベンダーの原産地のひとつでもあり、元々は山岳部に自生していたものを放牧に来た羊飼いが刈り集め、グラースの香料会社に売っていたという。香料産業の繁栄と共に、野生のものだけでは足りなくなり、畑で栽培するようになった。当初は収穫した花のついた枝を馬車でグラースまで運んでいたこともあったが、香料を採る蒸留作業も畑の近くで行われるようになり、ラベンダーの香料生産がこの地方の産業のひとつとなっていった。
 ラベンダーの収穫期は短い。萼がふくらみ、花が満開になる少し手前頃が最も香り高いという。最高の時期に刈り取り、一気に蒸留する。この時期、一面紫色だった畑が、日々刈り取られ、日々緑に変わっていく。村の風景が、日々、いや、一瞬一瞬に変わっていく。そこがまたよい。単なる観賞用の花畑でなく、ラベンダーと共に暮らす人々の生活の息吹を感じるような気がする。
 この地域この季節といえば、昼間の気温は日向なら30℃を大きく越す。暑さの中での刈り取り、乾燥、脱穀、蒸留などの作業は、かなりの重労働だ。でも、プロヴァンスの人たちにとってのラベンダーは単なる収穫物以上の存在のようだ。
 この時期、彼らはエアコンを止め、窓を開けて車を走らせ、ラベンダーの風を楽しむ。畑に目をやれば、風の力でラベンダーがうねっている。まさにラベンダーの海である。私たちがアロマテラピーなどと騒ぎ出すずっと前から、この地の人たちは、昔から慣れ親しんできた香りが、人生を潤してくれることを知っているような気がする。
ラベンダーうね
ラベンダー収穫風景
刈り取り
ラベンダー畑の脇に置かれる養蜂箱



佐々木 薫

佐々木 薫氏 (ささき かおる)

社団法人 日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。
(株)生活の木プランニングマネージャー。

ハーブ・アロマテラピーの研究に携わり、ハーブ製品・ショップ・ハーブガーデンの企画・開発を担当。アロマテラピー、ハーブに纏わるカルチャースクール、セミナー、講演会の講師として活動。生活の木 HerbalLifeCollege主任講師・よみうりカルチャーセンター講師・目白大学エクステンションセンター講師・エコールプランタン講師

著書/「おいしいハーブティー」(誠文堂新光社刊)、「はじめてのアロマテラピー」(池田書店刊)「癒しのアーユルヴェーダ」「ブルガリアンローズ」(BABジャパン刊)
監修/「アロマテラピー図鑑」(主婦の友社)他、多数。


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