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旅なかま 11・12月号

世界最高の花園が迎えてくれる中国の自然
世界最高の花園が迎えてくれる中国の自然
世界最高の花園が迎えてくれる中国の自然

赤道に近い海南島から、極寒のシベリアに接する黒竜江域までの広い国土に、世界最大級のタクラマカン砂漠があるかと思えば無数の湖を配したチベット高原が広がり、長江、黄河の大河が流れ、更に世界最高峰チョモランマ(エベレスト)までも有する中国には、その多彩な環境に応じて多種多様な植物が自生し、一説には世界の植物の三分の一は中国に在ると云われています。
 特に雲南、四川、青海各省から東チベットにかけて〈横断山脈〉と呼ばれる一帯は、ヒマラヤから続く六、七千メートル級の山々を、ガンジス、イラワジ、サルウィン、メコン、長江、黄河などの大河が深く抉り、複雑で険しい地形を造り出しているため、世界最大の植物の宝庫と云われる中国でも最も魅力的な花園を展開しています。
 この地を訪れて観られる花の数は一度で有に四・五百種を超え、紹介したい珍しい植物や美しい花も数多いのですが、紙幅に限りもあり、ここではほんの一端を採り上げてみます。
 この地域の野生植物を訪ねるなら第一歩は四姑娘山群が良いでしょう。青ケシの仲間だけでも四種類を観る事ができ、更に運が良ければ新種ではないかと専門家の間で注目を集めている植物に出逢えるかも知れません。
 四姑娘山群は観光開発が進み、双橋溝などはシャトルバスで谷の最奥まで入れ、岩峰とお花畑けの美しい競演を堪能できるのもこの地の魅力です。
 天を突く鋭い岩峰の麓は悠々とヤクが草を食む放牧地となっていて、ムカシヨモギの仲間やキジムシロ類が一面に咲き誇り、川の流れに沿った湿原にはクリンソウに似た大形サクラソウのプリムラ、ポイソニイ、白い花弁にヤクの角状にねじれた小豆色の口ばしが印象的で美しいシオガマ類ペディクラリス・モンベルギアナが揺れています。
 四姑娘山に行く途中で越える巴朗山の峠付近も絶好の観察地点でアツモリソウの仲間や青いケシ以上に珍しい真紅のケシ・メコノプシス・プニケアなど、垂涎の的の植物が咲き誇っています。
 四川省で次にお薦めしたいのは理塘高原です。四川の最高峰ミニヤ・コンカ山群から川蔵公路に沿って西に展開する標高四〇〇〇メートル内外の大高原地帯は、そのどこを採っても広大なお花畑けの連続で、厳しい寒気に晒される高地で花粉を運んでくれる虫と共生するために葉をフィルム化させた温室植物と呼ばれるレウム・アレクサンドラエやサウッスレア・オヴァラータなどが車道のすぐ脇に咲き、春には様々な種類のシャクナゲが競い合うのを観る事ができます。
 また花崗岩質の砂地を美しい流れが浸す所ではウルップソウの仲間や、下向きに咲くキク科の花で日本には同属の植物がないクレマンソディウムや飛燕草類など珍しい花が、青いケシの仲間と共に次から次へと現われ、心奪われてしまうことでしょう。
 雲南省は四川を凌ぐ植物の宝庫、ここで是非探して欲しいのはユリ科のノモカリス。その可憐な美しさは中国の美女西施にも例えられるとか。それに加え、八種からなるこの属はミャンマー北部の一種を除き七種は雲南以外では見られない、正に幻の花と云うべき花です。
 四方街が世界遺産となった麗江に近い老君山は、このノモカリスの中でも珍らしいパラダンチナに会えるだけでなく、英語でヒマラヤンブルーポピーと云った時の青いケシ・メコノプシス・ベトニキフォリアも出逢え、更にシオガマやツリフネソウの仲間の珍らしい花や、多種多様なシャクナゲの仲間が一帯を埋め尽し、五〜六月の花時には壮観を呈します。
 青海省は何と云っても青いケシの代表格ホリデュラの本場。アムネマチン街道やチベットに抜ける巴顔喀拉山などでは、最高所に孤高を保つ透明な青に浸って下さい。こうした高地にはキオノカリス・フッケリを代表とするクッション植物や、タンポポに近いのに地表に貼り着いてしまったソロセリス、防寒の為綿毛を纒った綿毛トウヒレン。あるいは極く矮少化したトリカブトなど特異な生態を身につけた植物を観る事ができます。
 崑崙山脈や東チベットは交通の便が悪く、短期間では訪れ難い秘境の地でしたが、西寧から拉薩に高原鉄道が開通し、林芝には空港が開港されました。そうなればヒマラヤ山脈東端の秘峰ナムチャバルワBCへの植物探訪も可能になります。 雲南と四川 二つのシャングリラを結ぶコースや、四川から青海へ長江と黄河源流を渡り歩く花の旅。そして崑崙やアルタイ、天山山脈など、まだまだ秘境と云える地域へ野生の花を訪ねる夢も、中国の経済発展と共に可能になるかも知れません。
 世界最高の花園が皆さんの来訪を待っています。












大内 尚樹氏 大内 尚樹氏(おおうち なおき)
登山家・植物学者

略歴:シダと岩登りに中毒して40年。妙高山北元の秘境・海谷山地の岩場を開拓し、旧ソ連時代、クリミヤ半島で行われた国際岩登り競技会の日本チーム監督を努める。早稲田大学ハイキングクラブ技術顧問、相模原市自然の村相談員、朝日カルチャー講師として、花や山菜、キノコ採りから沢登りまで、自然を多面的に愉しんでいる。
著書:「花を求めてハイキング」(主婦の友社)、「多摩川水流紀行」「秘境の山旅」(白山書房)


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