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ここに、派手に紹介する写真は10年程前、フランスの代表的な週刊誌『フィガロ』が組んだ特集記事『発見』の冒頭を飾るもので、見出しの説明文はこう書かれている。
「2000年間を海底の泥土のなかで過ごした後に、女王は再び光を見る」
先端技術を駆使する海底考古学者の努力が、こうしてクレオパトラの像をアレクサンドリアの海底で立ち上がらせたのである。彼女は女王としての威厳を備えている、と見るはひが目か…。
また『フィガロ』と並ぶ週刊誌『レクスプレス』は60ページもの「古代エジプト特集号」を組み、ムバラク・エジプト大統領とのインタビューでしめくくるという勢の入れ方だった。
このように、フランスに起こった古代エジプトブームの原因は、「ヨーロッパ海底考古学研究所」の本部がパリにあり、同本部はユネスコから大規模な調査依頼を受けていたからである。
「毒蛇に身をかませて死んだ女王」とクレオパトラについていうのはまだおとなしい方で、彼女は「オリエントの魔女」「ナイルの毒蛇」「王冠をかぶった娼婦」などとたたかれている。これはど悪口の対象になった女王はほかにいないだろう。
それはローマ人の尊敬する指導者であるユリウス・カエサル(シーザー)とアントニウスが、遠征の際アレクサンドリアに上陸するや、たちまちクレオパトラのとりことなり、「ローマを忘れてしまった」ためのようだ。しかし、ほんとうにそうか。
ここでは、西洋文学でしばしば取り上げられているカエサルとクレオパトラの関係を、オリエント側から眺めてみよう。
二人が初めてアレクサンドリアの王宮で会ったのは紀元前48年。そのときクレオパトラは21歳、一方カエサルは53歳だった。このような年齢差を越えて二人が結ばれたのは「政治的野望」という共通項が存在したからだ。すなわち、彼女はアレクサンダー帝国唯一の後継者として、プトレマイオス朝のエジプトに「東と西の融合」を実現させたく、そのための政治力を彼に求めた。
一方彼は、西方の指導者として、ローマという都市国家を世界国家に発展させたく、そのための財力を、この豊かな国エジプトの小柄な女王のうちに見た。そこで、ローマとエジプトのあすを一つの運命に結びつけたら――と彼女は思ったであろう――それこそ「東と西の融合」が完成するのではあるまいか。
しかし、このような夢は、「ブルータス、おまえもか」の一語によって雲散してしまう。そして、シェークスピアの言葉のように、すべては水に水を注ぐがごとく消え去って二度と戻らない。
この町で歴史的に著名だった建造物は、世界七不思議のひとつ、沖のファロス島に建っていた大灯台と、大図書館。前者は前3世紀に建てられ、120メートルの高さがあったが、時代とともに崩壊してしまい、15世紀の首長が廃墟を整理し、石材を再利用して要塞を建てた。それが現在のカイトベイのとりでである。
一方、70万部の蔵書を誇った世界最古の図書館は、クレオパトラ時代に戦火で焼失したが、その現代版がユネスコとエジプト政府の手でこのほど完成。エジプト、アラブ、地中海、アフリカの文化に関する文献や古代の希少本の収蔵をめざす。建物の延べ面積は8万5千平方メートルで11階建て。ウルトラモダンの外壁面には120カ国語の文字が彫り込まれているそうだ。なお、日本は、コンピューターシステムの導入面で援助している。
牟田口 義郎氏(むたぐち よしろう)
略歴:1948年 東大仏文科卒。朝日新聞記者として中東・パリ各特派員、論説委員を務める。退社後、成蹊大学、東洋英和女学院大学教授を歴任。専攻は中近東現代史、地中海文化史。中近東文化センター(財)理事長・中東調査会(財)・日本チュニジア協会・日仏協会各理事。著作に「物語 中東の歴史」「カイロ」「中東の風のなかへ」「あの夏の光のなかへ」「地中海歴史回廊」ほか。訳書に「アラブが見た十字軍」「サマルカンド年代記」ほか。
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