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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2019年05月17日

ダ・ヴィンチ没後500年 その実像と最新ニュース (パート1)

 

去る2月28日、学士会館にて、2019年度の美の旅の商品発表を記念して行われた東京造形大学教授池上英洋氏の講演「ダ・ヴィンチ没後500年 その実像と最新ニュース」の概要を、数回に分けてご紹介いたします。

 

 

今年はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年に当たり、世界中で様々な催しが行われます。今日は、最近話題になった『サルバトール・ムンディ』の騒動の顛末とその作品自体、そして、レオナルド帰属作品の判定方法と調査方法、そして最後に、最近判ってきたレオナルド後半生における制作の実態をご紹介したいと思います。

 

 


『サルバトール・ムンディ』の騒動の顛末とその作品自体


『サルバトール・ムンディ』は、救世主キリストのことを指します。クルミの板に油絵で描かれていて、『モナ・リザ』と大して変わらない比較的小さい絵ですが、この絵が世間を大いに騒がせました。2017年10月10日にニューヨークのクリスティーズで競売の告知がなされました。新たに発見されたレオナルド真筆の絵画であるとの触れ込みで報道されたので、競売前から大いに話題となりました。これが本当ならば、15点ほどしかないレオナルドの真筆作品の新たな一作となり、個人で購入できる唯一のレオナルド作品となります。11月15日の競売で、サウジアラビアのムハンマド・サルマーンという皇太子が、4億5 , 030万ドル、当時の日本円で508億円相当という絵画取引史上最高値、しかも桁違いの額で落札しました。よくわからない額ですが、金塊に直すと10トンだそうです。恐らく今年10月のパリ・ルーヴルでの「ダ・ヴィンチ展」が最初の展示になると思います。 『サルバトール・ムンディ』は真正面から見たキリストがグローブ、すなわち地球を手に持ち、祝福を与えています。主題ですが、聖ヴェロニカが十字架を運ぶキリストの顔を拭いた時に布にキリストの顔が写ったという「聖顔図」と、もうひとつは、キリストが自らの顔を布に押し当て、顔が写った「マンディリオン」、「自印聖画」です。「マンディリオン」は第4回十字軍のコンスタンティノープルで姿を消したとされますが、コピーがいくつかあります。ひとつはトレチャコフにあり、イタリアには、14世紀にビザンティン皇帝からジェノヴァの元首に贈られたとされる「ジェノヴァの聖顔」があります。

 

 


レオナルド帰属作品の判定方法と調査方法


 

『ジネヴラ・デ・ベンチ』を例にご説明します。この作品は、ワシントンにある小さい作品で、アメリカでは唯一のレオナルド作品です。両面が見えるように展示されていて、裏面には、棕櫚と月桂樹、その間に杜松(ジネプロ)が描かれています。これは、ジネヴラとジネプロの語呂合わせです。そして、モットー「VIRTUTEM FORMA DECORAT(美は徳を飾る)」が書かれています。すなわち、ジネヴラは、美しいばかりではなく、徳もあるということです。

最近、我々が絵画作品の分析に当たって非常に頼りにしているのが赤外線写真です。これにより、下の層にある下絵の段階が見えます。例えばこのモットーの部分を赤外線にかけると、D の位置にH が見えます。何が書いてあるかというと、「VIRTUSET HONOR(徳と名誉)」です。これをモットーにした人物が、ベルナルド・ベンボで、ヴェネツィアの外交官、有名な人文学者、詩人でもあります。彼はヴェネツィア大使として、フィレンツェに2度ほど赴任し、ジネヴラ・デ・ベンチを自分の“ミューズ”と讃えていました。すなわち、直接の恋愛関係にはありませんが、精神的な愛を捧げて、芸術上の霊感をいただくという対象でした。

フィレンツェに赴任している間にこの作品を注文し、表面にジネヴラ、裏面に自分のモットーを描かせたことがほぼ確実です。ちょっと見ていただくと、この絵の裏面は下が途切れていて、顔料が剥がれています。恐らくは何かで顔料層が剥がれてしまい、切断したと思います。この絵のもとの姿は、フィレンツェのバルジェッロ美術館にあるヴェロッキオ、すなわちレオナルドの先生によるジネヴラ・デ・ベンチ像とされる作品や、レオナルドが残したいくつものデッサンから、こんな感じだったのではないかということがわかります。細かいところを申しますと、髪の毛を一本一本描く、これは他の画家もたまにやりますけど、レオナルドは偏執狂的に一本一本色を違えています。また、赤外線写真で見ると、最初の顔の輪郭が少し外側に広げられています。描き始めて、もう少し実物は顔が広いということで手直ししたわけです。こうした描き直し、修正のことを「ペンティメント(Pentimento)」と言います。さらに細かく見ていきますと、目のあたりにポツポツと点が見えます。
これは、スポルデロ転写法と言って、先ず原寸大の下絵を紙に描いて、輪郭線に沿って小さな穴をポツポツと開けます。
それを実際に描く板の上に置いて、上から木炭などの黒い粉をはたき、紙を剥がすと、ポツポツと黒い点が残ります。この作品は、残っている点から、下絵を転写したということがわかります。下絵段階なので、普通はこの点は見えませんが、透明に近い顔料のところ、すなわち瞳のあたりを探していただくと見つかることがあります。もうひとつは指紋です。レオナルドは彩色に当たって、指と手の平を多用したので、指紋や掌紋がたくさん見つかっています。彼は科学者なので、自然界にないものは描きたくないという、実証主義者としての信念があります。輪郭線は自然界にないものです。輪郭線を使わずに顔の立体感を出すには、グラデーションで描くしかありません。筆で描くよりは、点描のように顔料を置いていったほうがやりやすいということで、スフマート(ぼかし技法)となります。典型的なのが『ジョコンダ(モナ・リザ)』で、スフマート技法で描かれ、輪郭線が全くありません。スフマートはレオナルドが最終的に辿り着いた技法のひとつで、特に後期作品には輪郭線がありません。『ジネヴラ』には少し輪郭線がありますが、随分少なくなっています。また、レオナルドはありがたいことにデッサンを沢山残してくれて
います。彼は左利きです。普通は右利きに矯正されますが、婚外子だったので、初等教育を受けていず、左利きのままだったんです。絵もずっと左で描きましたから、左利き特有の線の流れ(ハッチング)が見られます。もし右利きの傾きが見られたら、それは他の人の手が入っているということです。『ジネヴラ』の裏面ですが、一枚の葉っぱを見ると、右利きの人が描いています。すなわち裏面には少なくとも弟子の手が入っています。さほど大事ではないところは、弟子にやらせるわけで、全ての作品にそうした分担が見られます。

今後の絵画鑑賞の折に、スポルデロ転写法の点を見つけることは非常に楽しいことです。本来、これは壁画とか大画面に使われる方法で、小作品であれば、そのまま見ながら描けばいいわけです。ただ、相手が有名人、高貴な人、政治家であるといった場合には長時間座らせるのは不可能ですので、さっと描いてゆっくりと転写します。これが、スポルデロ法の特徴です。もしくは、下絵と彩色を別の人がやるということです。下絵を描いたら、それを渡して絵にして色を塗ってもらう、こういうやり方をレオナルドはやっています。ペンティメントがあれば、ほぼ確実にレオナルドのものです。弟子が転写をする場合、先生が指定したものを弟子が勝手に変更するということはあり得ませんが、本人が描く時には、自分が描いた下絵を自分で勝手に直しますから、ペンティメントが見られます。ということで、やはり『ジネヴラ』はレオナルド本人の絵であることが良くわかります。そしてスフマート技法が見つかれば、これはもうレオナルドだけです。
指でポンポン描いていくのは、大変な時間がかかり、膨大な作業となりますから、他の画家はほとんどやりません。最も有名な『ジョコンダ』も完成していません。さらに指紋や掌紋が見つかればいいですよね。右利きの線(ハッチング)があれば、他者または追随者がいたということです。以上は、今後の美術鑑賞のポイントとなります。レオナルド以外の作品にも応用できますので、単眼鏡を手に絵画をご鑑賞いただくことをお勧めいたします。 (来月号に続く)

 

 

至福! 贅沢! 大満足!

ウフィッツィ美術館  「貸切り見学」帰国報告


以前より度々紙面でご紹介してきました「ウフィッツィ美術館『貸切り見学』」が遂に3月18日(月)に行われました!
当日は朝日旅行の13コース・計172名がフィレンツェに集結。まずは、イタリア・ルネサンス美術がご専門の塚本博先生(明治学院大学講師)による事前講座です。「ウフィッツィ美術館の楽しい名画鑑賞」と題し、見逃せない絵画、お勧め鑑賞方法などのお話を聴いた後、ウフィッツィ美術館へ。
お待ちかねの貸切り見学、至福の一時、贅沢な鑑賞時間がスタートです!!いつもは世界中からの入館者で混雑するボッティチェッリやダ・ヴィンチの絵画の前も、この時だけはわずかに数える程度。館内では貸切りのメリットを活かし、時間の許す限り自由にご鑑賞頂きました。最初の部屋から一つ一つ見学する方、お目当ての絵画めがけて奥の部屋へと一気に進む方など、訪問方法は様々。そして、絵画に寄って細部を丹念に観る方、少し離れた場所から全体をゆっくり眺める方など、鑑賞方法も様々。どれも貸切り見学だからこそできる、貴重な「美との対話」です。
ご参加のお客様は皆この特別な体験を満喫頂き、笑顔でウフィッツィ美術館を後にされました。
今後も朝日旅行ならではの特別企画を創り、皆様に感動をお贈りさせて頂きます。どうぞご期待下さい。この度はありがとうございました!  (宮嶋 博)

 

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投稿:WEB管理担当