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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2017年01月31日

旅なかまVol.276 中世の聖なる村々と 知られざるロマネスクを訪ねて

〔本稿は会員誌『旅なかま』2017年1月号に掲載されたものです〕
ご新規のお客様には見本誌を無料でお送り致しますので、こちらのフォームからお申込みください。その際、「旅なかま1月号希望」とご記入下さい。なお、部数に限りがございますので、お早めにお申込みください。

イタリアの秘境・アブルッツォ、モリーゼを行く 中世の聖なる村々と 知られざるロマネスクを訪ねて

イタリアにはヨーロッパの歴史・文化のほぼ全てが存在します。そして、地理的にも南の地中海の十字路シチリアから北は4千メートル級の山岳地帯アルプスを擁するピエモンテ、ロンバルディア地方、そして東のギリシア世界に開かれたアドリア海の諸都市、東西南北に拡がっています。そのため何処を訪ねても、何度訪ねても、そこに新しい世界を発見し、体験することが出来る唯一の国かも知れません。そんなわけで必然的にイタリアの旅のコースはどの国よりも多く、バラエティに富んだ旅が生まれます。10回、20回と訪ねるリピーターの方も多いのも至極当然のことと思います。
ではもうイタリアは行き尽くされてしまったのでしょうか。まだまだイタリアには知られざる魅力的な世界が残されています。それがアブルッツォ、モリーゼです。

最高峰グラン・サッソ
カンポ・インペラトーレへの道

イタリアの秘境を行く

グラン・サッソを最高峰とするアペニン山脈に抱かれたイタリア中部アブルッツォ、モリーゼはかねてからイタリアの秘境と云われてきました。丘の上や峻険な山間に昔ながらの村々が連なり、多くの知られざる魅力的な中世の修道院や聖堂が残されています。山岳地帯によって長い間外界と隔絶してきたことから手つかずの自然や個性的な文化が今も残り、絶景を楽しむことが出来ます。

「イタリアの美しい村々」や「奇観の村」が連なる

イタリアには現在民間団体で「イタリアの最も美しい村」協会というのがあります。歴史的な遺産や景観を有する小さなコムーネや集落によって構成され、イタリア全土で200を越える「イタリアの美しい村」があり、アブルッツォ、モリーゼにはその約1割に当たる25箇所以上の美しい村が含まれています。何処も昔の佇まいや景観が残されています。カステル・デル・モンテ、パチェントロ、スカンノ、ヴィーララーゴなどの美しい村や、崩落した山上に中世の城が残る奇観の村ロッカスカレーニャを訪ねてみるのも楽しいです。

ロッカスカレーニャの村

アブルッツォのロマネスク聖堂の名刹

9世紀、ローマから教皇聖クレメンテの遺骸がこの地に移葬された後、12世紀半ば過ぎ、ロマネスク後期に改築されたシトー派のサン・クレメンテ・ア・カザウリア聖堂は、アブルッツォのロマネスク聖堂の中で最も華麗な聖堂といわれています。2009年の地震で大きな被害を受けましたが、他に先駆けていち早く修復が完了したのは、それだけ多くの人が1日も早い復旧を望んでいたからに違いありません。何よりファサードが素晴らしい。正面三つの門があり、中央扉口タンパン、楣石(ラントー)には聖クレメンテゆかりの場面が浮き彫りされ、側柱に4人の預言者、ブルゴーニュ風の柱頭彫刻もいい。南扉口タンパンには聖母子像があり、内部は、シトーの簡潔な空間の美しさが漂います。ロマネスクの精巧な紋様が刻まれた祭壇天蓋の(ギボリウム)、「アブルッツォのバラ」といわれる装飾を施した14世紀の説教壇、建立当時の9世紀のクリプトも覗いてみましょう。
アペニンの高峰をのぞむ人里離れたポルクラネータの谷に聖母マリアに捧げられた11世紀のサンタ・マリア・イン・ヴァッレ・ポルクラネータ聖堂が佇んでいます。内陣障壁で区切られた三廊式バシリカで、サンクレメンテ・ア・カザウリア聖堂よりも大よそ1世紀早い初期のロマネスク聖堂で、素朴で自由な、そして力強い作風はとても魅力的です。説教壇のユーモラスな「ヨナの物語」の浮彫、祭壇天蓋の豊かな装飾、内陣障壁の上におかれた木製の契約の箱に刻まれた装飾や柱頭彫刻もおもしろい。

サン・クレメンテ・ア・カザウリア聖堂中央扉口

南扉口の聖母子像

サンタ・マリア・イン・ヴァッレ・ポルクラネータ聖堂外観(左)と内覧(右)

知られざるロマネスク聖堂を訪ねて

エピファニーオのクリプトのフレスコ画(修復前)

アブルッツォやモリーゼに関して、まだ日本に充分な情報があるとはいえません。云わば知られざる地域です。しかし、そのことが思いがけない魅力的な村や聖堂に出会うかも知れないという期待感をかき立ててくれます。そしてその期待に応えて新しいロマネスク発見の旅になるかも知れません。知られざるロマネスク聖堂の代表として、まず、カラマニコ・テルメ近郊にあるサン・トマソ・ベケット聖堂を、また、プレロマネスクの代表としてモリーゼのサン・ヴィチェンソ・アル・ヴォルトゥルノ修道院のエピファニーオのクリプトを訪ねてみましょう。サン・トマソ・ベケット聖堂はそれ以前にキリストの弟子聖トマスに献じた聖堂でありましたが、カンタベリーのトマス・ベケットが暗殺された1170年から32年後のロマネスク末期、1202年に建てられ、聖トマス・ベケットに献じられました。マイエラ山塊の近いこのカラマニコ・テルメ周辺地域は9世紀までパテルナムという古代ローマ名で呼ばれ、その名の通り温泉も湧き出ていて、今もクリプトにその井戸も残されています。
何といっても注目は正面中央扉口ラントーにある「玉座のキリストと12使徒」の丸彫りの彫刻群です。右から3人目の聖トマス(と想われる?)の腕をとって使徒の一人がキリストの方へ導こうとしています。使徒たちはこの動作に集中し、会話はそのことで持ちきりです。こうした動きはイタリア中世美術においてそれ以前にはない稀有なしぐさといわれています。コリント式の柱頭を頂く円柱も流用されているところから古代の神殿もあったと推測されます。まだ部分的に未完成であったり、フレスコ画の規模が縮小されたりということはありますが、外部も内部も腕利きの石工たちの豊かな意匠が存分に発揮された作例で、「アブルッツオで見なければならない聖堂」リストに入っているのも肯けます。

サン・トマソ・ベケット聖堂中央扉口

サン・ヴィチェンソ・アル・ヴォルトゥルノ修道院

サン・ヴィチェンソ・アル・ヴォルトゥルノの修道院とクリプト

モリーゼのサン・ヴィチェンソ・アル・ヴォルトゥルノの修道院は中世以前より写本制作が盛んで、そのため文化交流のセンターとして注目された重要な修道院でした。その建築的遺構は3つの時代に区分されています。ローマの初期キリスト教時代の形体と構造を再構築したロンゴバルド・カロリング朝時代の建築、オットー朝時代、そして教会建築に関するグレゴリウス改革の影響を具現化したロマネスク時代のものです。

数世紀埋もれていたクリプトに残る9世紀のフレスコ画

特に必見のものはエピファニーオクリプトに残るフレスコ壁画は中部イタリアにおける9世紀前半のロンゴバルドやビザンティンの様式が融合したカロリング朝時代の作例で、ピエモンテのカステル・セプリオなどに比肩し得るプレロマネスクの貴重な遺構です。881年のサラセンの略奪で数百人もの修道士が殺害され、建物は崩壊しまいましたが、フレスコ画は奇跡的に無傷で残りました。このクリプトは1832年、一人の農夫が畑仕事の時に偶然発見してもので、幾世紀もの間、土の中に埋もれていたため奇跡的に今日まで残ったのです。キリストの「ご降誕」から「磔刑」、「栄光のキリスト」などの諸場面が見られます。近年、修復され色鮮やかに甦りました。

写真は全て Wikimedia Commons

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【美の旅】イタリア秘境のロマネスク 10日間

投稿:首都圏発海外旅行担当