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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2018年10月31日

旅なかまVol.296 歴史の証言者としてのウフィツィ美術館

〔本稿は会員誌『旅なかま』2018年Vol.296に掲載されたものです〕
ご新規のお客様には見本誌を無料でお送り致しますので、こちらのフォームからお申込みください。その際、「旅なかまVol.296希望」とご記入下さい。なお、部数に限りがございますので、お早めにお申込みください。

歴史の証言者としてのウフィツィ美術館(東京造形大学教授 池上 英洋)
ウフィツィ美術館の窓から見えるもの

細長い「コ」の字型をしたウフィツィ美術館の、一番奥のつきあたりまで行ったら、窓からアルノ川を眺めてほしい。すぐ右手に、ヴェッキオ橋(ポンテ・ヴェッキオ)という有名な橋がある。実に不思議な格好をした橋で、いかにも後から足しましたといわんばかりに、増築部分がボコボコと橋脚からはみ出るようにくっ付いている。
橋は両側に昔ながらの貴金属や宝飾品の店が並ぶ観光名所となっているが、ここではその二階部分をよく見てほしい。橋の上を貫くように続く上階はたもとで直角に曲がり、そのまま川沿いをまっすぐこちらにのびてから、窓の手前で折れて建物に突き刺さる。そう、この上階部分はウフィツィ美術館の三階から出て橋を越え、ピッティ宮殿まで延々と続いているのだ。

ウフィツィ美術館の窓から、アルノ川にかかるヴェッキオ橋と「ヴァザーリの回廊」を望む

“ウフィツィ” とは“ オフィス” のこと(現代イタリア語ではウフィーチョ)。つまりかつてはこの建物の中にフィレンツェ共和国政府の役所がすべて入っていた。建築家はジョルジョ・ヴァザーリで、アンドレア・デル・サルトの弟子でかつミケランジェロの信奉者として、16世紀フィレンツェを代表する大工房をかまえていた。絵画もこなす万能タイプで、ウフィツィ美術館にも<無原罪の御宿り>などの絵画が飾られているが、今日ではむしろ彼が著した『美術家列伝』によって「最初の美術史家」として知られている。
一方、ラファエッロのコレクションなどで有名なピッティ宮殿は、その名の通りピッティ家が造らせた大宮殿だが、コジモ一世・デ・メディチが妻のために購入した後はメディチ家の本拠となっていた。つまり政庁舎から川をわたって、メディチ家の邸宅まで、空中廊下が途切れることなく続いているのだ。なにか緊急時があれば、メディチ家の人々は廊下を行き来すればよく、地上を歩く際に襲われる危険を排除することができた。「ヴァザーリの回廊」と呼ばれ、今日ではウフィツィ美術館の肖像画ギャラリーとなっているこの空中廊下により、トスカーナ大公となったメディチ家がいかにフィレンツェを私物化していたかがよくわかる。それは同時に、かつて共和国という社会構造によってこそルネサンス文化を花開かせたフィレンツェが、君主政を選んで自ら共和政の理想を放棄した瞬間でもあった。

アーニョロ・ブロンズィーノ「トスカーナ大公コジモ一世・デ・メディチ」1545年、ウフィツィ美術館

祖国のシンボルとなったヴィーナス

メディチ家のコレクションというウフィツィ美術館の歴史の一面をよくあらわしているのが、八角形をした「メディチの間」である。ところ狭しと名画が飾られた部屋の中央には、<メディチのヴィーナス>と呼ばれる大理石像が立っている。ヘレニズム期を代表する作品のひとつとして、フィレンツェの、ひいてはイタリアのヴィーナス像のシンボル的な存在である。

ウフィツィ美術館「メディチの間」(中央がメディチのヴィーナス)

1797年、ナポレオンに率いられたフランス軍がイタリアに侵入する。当時イタリア美術界を背負っていたのは彫刻家アントニオ・カノーヴァで、「大
理石の魔術師」とも呼ばれるその卓越した技巧によって、ナポレオンの妹をモデルにした作品などを造っていた。しかし彼は祖国の危機に際してナポレオンに反旗を翻し、教皇ピウス七世に進言して、イタリアの美術品がフランスに奪われるのを防ぐための立法をうながした。

「メディチのヴィーナス(ウェヌス)」 紀元前1世紀、ウフィツィ美術館

しかしナポレオンは占領地から優れた美術品を根こそぎ持っていく。<メディチのヴィーナス>も当然のようにその対象となった。そこでカノーヴァは失われたヴィーナス像をベースに、自ら<ウェヌス・イタリカ(イタリアのヴィーナス)>を彫って、空席となっていた場所に置いた。結局ナポレオン没落後のウィーン会議を経て<メディチのヴィーナス>は戻ってきたので、カノーヴァのヴィーナスは現在ピッティ宮殿にあるが、このエピソードは彼の愛国者ぶりとウフィツィ美術館が辿った歴史を今日によく伝えている。

アントニオ・カノーヴァ、「自画像」1790年、ウフィツィ美術館

※全ての画像はWikimedia Commons 提供です。

Profile
池上 英洋(いけがみ・ひでひろ)
美術史家、東京造形大学教授。1967年、広島生まれ。
著書に、『レオナルド・ダ・ヴィンチ―西洋絵画の巨匠8』(小学館)、『ルネサンス歴史と芸術の物語』『美しきイタリア22 の物語』(いずれも光文)、『神のごときミケランジェロ』(新潮社)、『「失われた名画」の展覧会』(大和書房)、『死と復活』『西洋美術史入門』『ヨーロッパ文明の起源』(いずれも筑摩書房)など多数。
日本文藝家協会会員。

「ウフィッツィ美術館」を貸切見学!
贅沢な時間 名画の前で静かなひと時を

 来年3月18日(月)、美術館の休館日にウフィッツィ美術館の貸切見学をします。
2019年はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年にあたり、ダ・ヴィンチを始め、ルネサンス絵画がひときわ注目される1 年となります。ウフィッツィ美術館は、ダ・ヴィンチの3 作品の他、初期ルネサンスのジョットーから盛期ルネサンスのボッティチェリ、ラファエロ、ミケランジェロ、そしてティツィアーノを始めとするヴェネチア絵画、カラヴァッジョなどのバロック絵画までイタリア絵画の最高芸術を所蔵する美術館で、貸切ってゆっくり鑑賞することにより、たいへん贅沢な時間を体験いただけます。ウフィッツィ美術館はコの字形で2階と3階に分かれていますが、ここ3~4年で絵画の展示が大幅に変わり、多くの作品が3 階から2 階に移りました。たとえば、ダ・ヴィンチの3点だけを展示する特別室やティツィアーノの部屋が新設され、ボッティチェリの作品もレイアウトが変わるなど、スペースが広くなった分、ゆったり鑑賞していただけるようになりました。また、かつて館内の写真撮影は禁止されていましたが、自由に撮影ができるようになりました。
貸切見学の直前には、ルネサンス美術がご専門の塚本博先生による事前レクチャーをお聴きいただき、より充実した名画の鑑賞を楽しみいただきます。以前、美術館を訪れた方にも、新たな感動を得ていただけるでしょう。

3月18日(月) ウフィッツィ美術館貸切見学 スケジュール 

14:00~15:20 塚本博先生による講座「ウフィッツィ美術館の楽しい名画鑑賞」
(ベルニーニパレスホテル内大広間にて)
終了後、ウフィッツィ美術館へ移動。(徒歩約5 分)
16:00~18:00 貸切にて、自由に名画鑑賞(約2 時間)
18:00~18:30 ミュージアムショップにてガイドブック等をご購入ください。
18:30     終了予定。

ウフィッツィ美術館貸切見学ツアー ラインナップはこちらからどうぞ!

投稿:首都圏発海外旅行担当