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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2011年08月02日

2011年8月 2日 旅なかま8月号 巻頭特集

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〔本稿は会員誌『旅なかま』2011年8月号に掲載されたものです〕
鹿野(以下「鹿」) ・ 本日は、今年度のモーツァルト劇場による『イドメネウス』の公演が先週(6月18日)終了しましたが、大変お疲れのところ、ご自宅にお邪魔しています。先生は1983年にモーツァルト劇場を創設されまして、これまで日本語によるモーツァルトのオペラを中心に公演を続けてこられましたが、どういった経緯で日本語によるオペラ公演をなさろうとしたのでしょうか。

高橋先生(以下「高」)・30年くらい前ですけど、ウィーンのシュターツオパーへ行って、『こうもり』を観たんです。皆さんゲラゲラ笑っているのに、ほとんどわからないわけですよ!悲しくなっちゃってね。音楽と言葉両方あいまって、オペラであり、オペレッタであるという考えから、半分くらいは損をしている日本人に、豊かな日本語のオペラをつくって味わっていただきたいと。その頃、日本ではオペラを観て心温まって帰るっていうことがない、人生そういうの知らないで終わってしまうのかというもどかしさ。なんとかしたいという気持ちがありました。一方で、外国語と日本語は本質的に違うから…リズムといいアクセントといい、これは不可能に近いとも思いました。でも、なんとかしなきゃと思って、ドビュッシーの『ぺレアスとメリザンド』…これはドビュッシーとメーテルリンクの言葉がぴったりと相まって、手をつけられないようなパーフェクトな作品なんですが、それを「やらなきゃ」と必死になってやった。そしたら意外や意外、フランス音楽の大家で、明治学院大の平島先生が、月刊『太陽』に書いてくださって、「この日本語にドビュッシーが曲をつけたかと思われるようないい訳詞だった、自然で、耳に快く入った」とおっしゃってくださって。やっぱり、やりがいがあるのかな、なんて思いなおしたんです。それともうひとつ吉田秀和先生(音楽評論家)がNHKのFM時評に呼んでくださって、「今度の『ペレアス』の日本語は大変好評だけど、自分ではどの位の出来だと思う?」といきなり切り出されたのでこちらももじもじしながら「70点くらいでしょうかね。」と答えたら、吉田先生が「きみも謙虚な人だね。もっと高い評価でしたよ」といつのまにか評価を改められて、75点までにアップしてくださって、歌詞に対する自信を一瞬に与えてくださいました。

鹿・モーツァルト没後200年の1991年からは、五大オペラも上演されて、大変好評を博しておられますが、6年前の2005年はモーツァルト生誕250年で、日本中、モーツァルトで明け暮れた一年でした。「モーツァルト・イヤー」の盛り上がりは凄かったですね。私見ですが、ベートーベンでもああはならなかったと思います。クラシックファンだけじゃなくても、モーツァルトは好きだという方が多いですが、先生はどう思われますか。

・モーツァルトは宇宙区ですね。「モーツァルト・イヤー」の前は、こんなに愛されているとは思わなかったけど、シェイクスピアとかミケランジェロとかそれくらいの超宇宙的な存在だと思ってはいました。だけど、僕がそう言ってしまうと・・バッハ党もベートーベン党もいらっしゃるでしょ。でも200年祭をこえたら、この人気は他の人では代えられないと思った。コンサートに集まる人数からして違うし、地球に生まれた奇跡だと思うようになりました。これは日本だけの現象ではなくて、全世界ですね。
バッハというと、プロテスタントなんですよ。モーツァルトは、宗派を超えている。無信仰でも、全ての人が、子供でも、好きになれる。20世紀最大のプロテスタント神学者、カール・バルトが、「死後に天国に逝ったら、バッハじゃなくてモーツァルトに会いたい」って言ったから物議をかもしたんですよ。プロテスタント信者として何事かと…。彼は個人的に8歳のころからモーツァルトに親しんでいたということなんですけど、そういう方は結構多いです。私は最近三島由紀夫の本を書いて、日本文学研究家のドナルドキーンさんにさしあげたら、彼もモーツアルトが好きで、8歳の頃から『魔笛』に惹かれたとおっしゃっていました。子供の頃からのモーツァルト体験を語る方は多いですよね。私はピアノを習っていて、ピアノの先生は嫌いだけどモーツァルトの旋律は心に残った。ベートーベンの「エリーゼのために」くらいは弾いたけど…やっぱり一生好きになるタイプではなかった。ショパンもそうだけど…ちょっと他の人、って代わりの人はいないなぁ(笑)。晩年になって、仕事もやめて、モーツァルトを一日聴いているなんてのどかな毎日ではないけれど、フレーズが流れてくると、それがいつもモーツァルトなんです。

鹿・モーツァルトに限らず、これまで先生が観た中で、最も残ったオペラ公演というのは?

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・そうですね。1950年代にイタリアオペラが来日して、徹夜して切符買ったんですけど、デル・モナコの『オテロ』。あれは凄かったですね。かならずしもいい発声じゃないんですよ、ちょっと力んでるというか。ある種の、バーバリズムと臆病があって、舞台袖でウィスキーひっかけて押し出されるように登場する。その第一声が黄金の勝利の声なんです。あれは二度と聴けないでしょう。ティート・ゴッビと共演して、その演奏で帰っちゃったけど、全身感動で、動けなくなるような感じでした…海外だとミラノスカラ座の『皇帝ティトの慈悲』でタチアナ・トロヤヌスを聴いた時、それと来日したフィッシャー・ディスカウの『フィガロの結婚』。本当に数えるほどなんですよ、10本あるかないか。全てがうまくピタっと合ってパーフェクトな時だけですね。そういうのがあるんですよ。だからそれを求めて何度もみちゃう…それで散財するんですけど(笑)。旅なんかもそうじゃないですか。

鹿・その通りですよね。私も経験がありますが、何から何までほぼパーフェクトに行く旅ってありますよね。ところで先生は、度々ツアーにも同行していただいていますが、10日間ぐらいの旅で、3回~4回オペラを観賞しますが、結構ハードですよね。時差ぼけがあったり、なんとなく体調がイマイチの時、何か、うまい調整法はありますか。また、鑑賞に当って何かアドバイスありますか?

・そうですね、やはり長いですから、台本を一度や二度読んでもなかなか頭に入らない、台本を読んでさらにDVDがあれば見ておくといいですよね。体調は―あんまり食べ過ぎないこと!お腹がいっぱいになると、脳神経が働かなくなって、楽しめない。

鹿・ オペラってだいたい夕食時ですよね。先生はお食事はどうしてますか?

・公演前にサンドウィッチとかクッキーとか、軽くですね。あまり食べない。モーツアルトが手紙に書いていますよ、「旅のコツは、あまり食べすぎないこと」(笑)。オナラもよく出しました。『モーツァルトの手紙を読む』(小学館)をよく読んでくださいね(笑)。ただオペラってね、観るのも体力がいるから、ちょっとは食べておかないといけない。矛盾しているようだけど難しいんですよね。

鹿・先生のツアーでは終演後に、10時過ぎくらいからおしゃべりしながら軽く食べるっていうのもありましたね。

・ その時のお客さんにもよりますね。盛り上がる方もあるし、「早く寝たい」っていう方もいらっしゃるし。でも、観てきたもので気持ちが高まって、語りながら食べられたら人生の最高ですよね。だから、いい演奏があればいいんですよ。オペラも、いいのに出会うと人生がかわりますからね!

鹿・本日はお疲れのところ、貴重なお話をありがとうございました。

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PROFILE 高橋 英郎先生(たかはし ひでお)

略歴:1931年東京に生まれ、東京大学文学部仏文科を卒業。1983年より「モーツァルト劇場」を主宰、オペラ公演の制作・訳詩・総監督。NHK衛星放送「毎日モーツァルト」にも出演。
著書:『モーツァルト』(講談社)、『モーツァルト~遊びの真実』(音楽之友社)、『モーツァルト366日』、『モーツァルト書簡全集』(白水社)など多数。『モーツァルトの手紙を読む』(小学館)。

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投稿:朝日インタラクティブ