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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2013年04月10日

旅なかま4・5月号 特別寄稿 ヨーロッパ夏の音楽祭 古代ローマ遺跡で開かれる音楽祭~100周年を迎えたヴェローナ音楽祭~

 

〔本稿は会員誌『旅なかま』2013年4・5月号に掲載されたものです〕

特別寄稿 ヨーロッパ夏の音楽祭 古代ローマ遺跡で開かれる音楽祭~100周年を迎えたヴェローナ音楽祭~

昨今の日本のオペラ上演はめざましい発展を遂げている。そんな日本でもどうしても手に入れられない物、それは、当たり前のことではあるが、古代ローマ遺跡である。野外劇場で催されるオペラだけは、今後どんなに日本のレベルが上がったとしても、現地に観に行くしかない。その代表格であるヴェローナ野外劇場でオぺラが上演され始めて、今年100周年を迎える。世界的有名なテノール歌手であり、現在は指揮者の他、バリトン歌手としても活躍しているプラシド・ドミンゴが名誉音楽監督に任命され、『ナブッコ』の題名役を歌うというから見逃せない。

今から100年前、テノール歌手のジョヴァンニ・ゼナテッロが巨匠トゥリオ・セラフィン他と、ヴェローナの野外劇場が見えるテーブルに座って、オペラ、そしてヴェルディについて話していた時、いきなりゼナテッロが「探していたのはこの野外劇場だ!」と指をさし、すぐに音響を試すために歌いに入ったという。古代ローマ人の音響効果を熟知した建築技術を目の当たりにし、経済的リスクを背負いながらも、1913年8月10日『アイーダ』でヴェルディ生誕100周年を祝った。古代ローマ遺跡が現代の野外オペラフェスティヴァルの殿堂として生まれ変わったのである。そしてまさにその100年後の2013年8月10日に、当時の演出をもとにした『アイーダ』が観られるとは、壮大なロマンだ。

ヴェローナ野外劇場 開演

《ヴェローナ野外劇場》
開演のベルの代わりに出演者がドラを持って登場。開演を知らせます。

古代ローマ人は天文統計学にも精通していて、雨が一番降りにくい場所に野外劇場を建てたという。その典型的な例がスイスにあるアヴァンシュ野外劇場だ。ヴェローナの4分の1ほどの規模の古代遺跡で、1995年から夏のオぺラが催されている。天候が不安定なアルプス以北では基本的に野外オペラは不可能だと言われているにも拘らず、たまに起こる「雨天中止」にもめげずに音楽祭が続けられているのは、古代ローマ人の智恵のお陰なのである。

オランジュ音楽祭も、古代ローマ時代の劇場の壁部分を使って客席をあとで付け足したというが、そのせいか、風が吹き抜けると途端に聞こえにくくなる。ローマのカラカッラ浴場も、劇場ではないが野外オペラに適していた。しかし遺跡老朽化防止のため、前方に舞台が作られるようになってから、音響が悪くなり残念だ。

ヴェローナ野外劇場

《ヴェローナ野外劇場》
100年前に上演された『アイーダ』からインスピレーションを受けて構成された再現版アイーダの舞台

ヴェローナ野外劇場の100年の歴史には2回の日本ツアーが刻まれている。1989年に『アイーダ』を携えて初来日した時、ジャーナリスト付きの通訳として同行したが、事務局長から、指揮者ネッロ・サンティ、アイーダ役のマリア・キアーラ、アムネリス役のフィオレンツァ・コッソット、ラダメス役のニコラ・マルテヌッチ、そして今は亡きピエロ・カプチッリという蒼々たる歌手達にいたるまで皆親切で、ヴェローナ野外劇場に誇りを持って公演に臨んでいたのが印象的だった。そんな彼らの力のお陰で、味気ない代々木体育館にいながらにして、ヴェローナ野外劇場を疑似体験できた貴重な思い出だ。しかしその直後に本物のヴェローナ野外劇場に招かれ、現実を知った。まだ薄明るいうちに開演し、段々暗くなるに従って客席に灯がともっていき、現実からどんどんオペラの世界に引きずり込まれていくタイムワープ体験は、現地でしかできないのであった。その感動のせいか、1991年にヴェローナ野外劇場が2回目の日本ツアーとして『トゥーランドット』を上演した時も同じく同行していたのに、ほとんど記憶に残っていない。それくらい強烈なアレーナ・ディ・ヴェローナの100周年は是非体験したい。

中 東生さん プロフィール

 

 

投稿:朝日インタラクティブ