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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2019年05月29日

美食とオペラの街、ボローニャ

 

 

ミラノに20年住んでいたこともあり、今でもよくイタリアを訪れます。自分が住んでいたミラノの他にはボローニャに行くことが多いです。ボローニャ歌劇場を日本に招聘する仕事に長年たずさわってきたので、友人知人が多くいるからです。

ボローニャで有名なものといえば、ヨーロッパ最古を誇るボローニャ大学、ポルティコと呼ばれる街中に張り巡らされたアーケード(雨が降った時に便利です)、そして何といってもボローニャ料理です。伝統的には魚よりも肉を使った料理が中心で、一番人気なのはラグー、つまりミートソース。ボローニャのラグーは肉の味がしっかりしています。材料は牛と豚のひき肉(メインは牛で豚はバラ肉)、そこにセロリ、人参、玉ねぎを入れ、トマトピューレ他で味を整えます。家庭でもレストランでもそれぞれ自慢のレシピがあり、合わせるパスタは卵が入った手打ち麺のタリアテッレ、トルテッリーニ、もしくはラザーニャなど。イタリアチーズの王様といわれるパルミジャーノ・レッジャーノを食べる前に好きなだけふりかけます。素朴な見た目と、栄養たっぷりの濃厚な味わいが特徴の一品です。サン・ジョヴェーゼというインパクトのある赤ワインがよく合います。

考えてみるとボローニャ歌劇場も、ボローニャ料理とよく似ているところがあります。外見は比較的地味ですが、中身はとても味わい深いのです。イタリア・オペラの殿堂といえばミラノ・スカラ座ですが、スカラ座はある意味国際的な劇場であるのに比べ、ボローニャ歌劇場はオーケストラや合唱団を含め地元の人が多く働いています。ボローニャを象徴する二本の斜塔から歩いてすぐのヴェルディ広場に面しているボローニャ歌劇場は、外からは劇場とわからないくらいのそっけない建物です。

しかし舞台美術家としても有名だったビッビエーナの設計で、1763年にグルック作曲《クレーリアの勝利》で開場した由緒正しい劇場は、約1000席という生で歌声を聴くのに理想的な大きさを持っています。オペラを聴く場合は、残響がありすぎると歌の上手い下手が分かりにくくなってしまいますが、ボローニャ歌劇場は残響が少なく、イタリアでも屈指の音の良さを誇っているのです。

ボローニャには歌劇場以外にも、観光客が訪れることができる素晴らしい音楽名所がいくつかあります。もっとも重要なのはボローニャ国際音楽博物館&図書館です。所蔵品の核をなすのは、18世紀にヨーロッパ中に名声がとどろいていた音楽理論家、教育家のマルティーニ神父の膨大なコレクションで、ファリネッリやモーツァルトなどの音楽家の肖像画、たくさんのめずらしい楽器、ロッシーニの《セビーリャの理髪師》を含む自筆楽譜などの展示がとても興味深いです。マルティーニ神父はボローニャに1666年に設立された音楽家団体アカデミア・フィラルモニカの中心人物でもありました。1770年には父レオポルトに伴われた14歳のモーツァルトが、当時一流の音楽家と名乗るために必要だったこのアカデミアの会員試験を受けるためにボローニャを訪れ、マルティーニ神父に対位法を教わっています。モーツァルトが試験を受けたホールでは、今でも室内楽コンサートなどが催されています。

ボローニャがあるエミリア・ロマーニャ州はオペラが盛んです。作曲家ジュゼッペ・ヴェルディもこの州のパルマ近郊の出身です。ロッシーニやドニゼッティもボローニャで音楽教育を受けました。この地方の特徴は、土地への深い愛着と豊かな音楽性です。ボローニャ歌劇場に集う観客たちは着飾った自分を見せるためよりも、オペラに胸を踊らせるために劇場に来ているのです。そして最高の演奏を聴いた時には、最高のラグーを食べた時と同じように賞賛を惜しみません。筆者が2015年1月にボローニャ歌劇場でミケーレ・マリオッティ指揮、マリア・ホセ・シーリ、グレゴリー・クンデ主演で聴いたヴェルディ《仮面舞踏会》は素晴らしい演奏で、これまでの私のオペラ人生でも特筆すべき経験でした。その時のボローニャ歌劇場の観客の熱狂はあっけにとられるほどで、まるで劇場全体が魔法にかかったかのようでした。

このような幸福な晩があるから、人は劇場に通うのをやめられなくなるのかも知れません。

 

ボローニャに訪れるツアーはこちら>>>>

 

◇井内美香 いのうち・みか

音楽ライター/オペラ・キュレーター。
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。
ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとし
て20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来日公演コーディネイトの仕事に携わる。
2012年より東京在住。イタリア・オペラを中心に執筆、取材、通訳、講演の仕事をしている。
共著書「バロック・オペラ その時代と作品」(新国立劇場運営財団情報センター)
、訳書「わが敵マリア・カラス」(新書館)等がある。オペラ台本翻訳、字幕制作も数多い。
新国立劇場で上演するオペラを予習する会《井内美香の「みんなでオペラ」》主宰。

 

ブログ:「井内美香のオペラな日々」はこちら>>>>

投稿:WEB管理担当