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機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2019年05月30日

陣内秀信先生へのインタビュー 秋の「南イタリア・プーリアの旅の魅力」について

陣内秀信先生

 

◆石が造り出したプーリア◆

 

鹿野:本日は、陣内先生に今回のプーリアの旅についてお伺いするためにご自宅にお邪魔しています。先

生よろしくお願いします。まず、イタリアの各地方はどこも魅力が一杯で、トスカーナやヴェネト、シチリア島を挙げただけでもそれぞれが全く違った魅力に溢れています。その意味でプーリアというところは、どう違って、何が魅力なのでしょうか?
陣内:プーリアの特徴は、まず、歴史の蓄積が凄いんです。まあ、イタリアはどこもそうですが、その中でも歴史が長くて、古代ギリシャやローマもあり、東方との繋がりもあるし、いろんな時代のいろんなものがあるんです。たとえば、ロマネスクです。プーリアのロマネスク建築は独創的でものすごく面白いですね。バロックの建築も素晴らしく、教会やパラッツォ(貴族の館)が目を奪います。そもそも、気候風土が独特で、石灰岩がたくさん取れるので、それを使ったヴァナキュラー(土着的)と言いますが、民家とか町並み、都市空間が面白いのと、モニュメントとしての教会とかお城とか、石を使った建築造形がいっぱいあるわけです。しかも古い体質の地中海的な、単純ではない複雑系の都市が多いんですね。したがって、都市の中が非常に高密で、道が迷路状で、もの凄くコンパクトにできていて、町の中を歩くだけで不思議な体験ができて楽しいんです。そういう感覚というのはイタリアの中でも僕の見るところアマルフィ海岸プーリアだけなんです。
鹿野:よく言われるように町がカスバというか、アラブ的という意味ですか?
陣内:共通性だと思います。アラブからの影響が間接的、あるいは直接的にあったかどうか、それは検証しにくいですが、共通した遺伝子というか、地中海全体に通じる複雑な空間があるんです。それは、実は防御上もいいし、それから家族とか近隣のコミュニティを大切にするのにとてもいいんですね。近代に近づけば近づくほど都市は単純化していくわけです。ですから、イタリアでもゴシック時代に発展した中北部の都市というのは、割と単純ですね。たとえば、ボローニャとか、パドヴァとかにポルティコ(柱廊)が付いたりしていますが、都市の複雑な空間のプログラムはないんですね。一方でプーリアの町は、隣や背後の家と壁を共有しながら、本当に高密にできていて、その中に独特のコミュニティがあります。それは我々日本人にとっても生活感を感じます。それと、路上とか、オープンスペースが豊かに使われています。広場とか路地とか、パラッツォの中庭とか…。そういう意味で都市空間と建築が本当に一体になっている面白さというのは、中部や北部のイタリアでは感じられないんです。
鹿野:同じ南イタリアのシチリアとも違いますか?
陣内:シチリアよりも遥かに豊かな感じがします。それは、石というのが大きいと思います。石の民家とか、普通の町並みの建築ですね。屋根まで、天井裏まで全部石で造るというのは、プーリアが一番なんですね。そして次がアマルフィ海岸で、イタリアでは他にはありません。みんな木をかなり使っています。この間、ノートルダム寺院が焼けたみたいに、また、フェニーチェ劇場が焼けたのを見ても、あれは木が屋根を支えるのに使われていたからです。
鹿野:とすると、石というのがプーリアのあらゆるものの原点みたいなものですね。
陣内:それを代表するのがアルベロベッロですが、あれは特殊系で、農民の家、貧しい家が封建領主のもとで集合して、命令されて集まって集落を作ったのです。普通の町はちゃんと市壁で囲われて、広場があって、教会があります。普通の町でも非常に迫力がありますが、石を積み上げて都市を作るテクニックはアルベロベッロと共通しています。プーリア地方は他と比べても基本的にこの石造りが多く、宝物というかストックが多かったのですが、近代化の過程であまり評価されず、活かしきれてなかったわけです。しかし、イタリアでは近代化する途中で、そうした過去の蓄積に気が付いて、豊かで政治的にも進んでいる北イタリアや中部イタリアの都市では、それを
保存し、活かし、再生するということを始めたわけです。南は遅れていて、ほったらかしだったんですね。宝物が眠っていた。それに気が付いてそれを活かすことを最初にやったのがプーリアだと思います。素材がいいので、磨き上げれば本当にいい空間になります。たとえば、レストランやワインバーみたいなお店でもヴォールト作りの曲面の天井があり、それをイタリア人独特のセンスで、リノベーションし、インテリアをうまく作れば、もの凄く格好がいいわけです。そうすると古い建物が磨かれた時の良さというのがあって、そういう良さを味わうのにはプーリアが一番だと思います。

 

◆都市と田園を繋ぐ食文化◆

 

鹿野:今、イタリア人、ヨーロッパの人たちが注目して、それを買い取って別荘とかにしていると聞いていますが?
陣内:イギリス人がプーリア地方の、特に田園の農場ですね、マッセリアっていうんですけど。大きな館です。それを購入するんだそうです。農園を経営する建物で、元々の所有者は都市の中に住んでいる貴族です。もう一つ大きな特徴は、イタリア全体、都市と田園の繋がりがかなり強く、とりわけプーリア地方はそれが強いんです。そして、イタリア全土で、80年代から農業や農業ゾーンが評価された時期が続き、プーリアがそれをもう一度取り戻すというか繋ぎ直すということを積極的にやって、マッセリアという農場をリノベーションしてホテルにしたり、B&B にしたりと、そういう事例がかなり増えています。
鹿野:私は、今から30年ぐらい前にプーリアに初めて行った時に確かに面白いところとは思いましたが、なにか寂れているというか、すごく田舎だなあという印象がありました。それが今、再発見されて、磨かれているということですね。
陣内:今回も訪れますが、僕が調査していた1970年代の前半にチステルニーノというところに出会い、非常にいい町ですが寂れていて、何か切ない思いをしながら、町の人と仲良くなりました。20年位後に行き直してみると、なんかもう見違えるようになって非常に洗練された人気のスポットになっていました。
鹿野:その頃は、南イタリアは、多くの人が北イタリアやヨーロッパに出稼ぎに行ってましたよね。
陣内:そして、小銭を貯めた方々がUターンで戻ってきたんです。もちろんイタリア全土、日本もそうですけど、地方都市、特に南イタリアから、優秀な人材、特に若者が北イタリアや海外に出て行ってしまう。大学とか、あるいは職を求めて、あるいはより良い面白い仕事を求めて出て行った訳です。そういう現象はまだ続いてはいますが、一方で地元で頑張っている人も多く、また戻ってくる人もいます。だから今、日本全国の地域で頑張っている人達がモデルにするのはイタリアなんです。なぜかっていうと、農業に付加価値を付けて商品化して、ブランディング化し、上手く食を楽しみながら、新しいライフスタイルと結び付けて発信しているのがイタリアなんです。
鹿野:そうですか。ところで今回、先生は地元に住んでイタリア人と結婚された大橋さんにコース作りや特別な手配などの協力も得て、とても盛り沢山でちょっと体験できないような旅が出来上がりましたが、どんな所が見どころですか?
陣内:プーリアは僕は個人的にも、あるいは僕の研究室もずっと続けて、都市の魅力を研究し、調査してきたんです。そして次に豊かさが甦りつつある田園を調べていて、田園の中のちっちゃな村とか町、あるいは農場と、そういうのも含めて調べてきたのですが、その両方を繋ぐのが食文化だと気付いたんです。イタリアでは都市とその周辺に広がっている田園、農村のことをテリトーリオといいます。都市プラス、テリトーリオ。都市とテリトーリオで全体の地域がわかるわけです。都市があって、テリトーリオがあって、その中に村や修道院があって、歴史的なものがいっぱいある。それが、今蘇ってきているんですね。イタリアでね。都市は魅力を発信し、田園も蘇ってきている。だからこそスローフードが産まれたわけです。そして景観を大切にする景観法があって、それは田園の風景を大切にするっていう意味なんです。歴史的な都市を大切にするのは当たり前で、そのスローフード運動で都市の周辺の自然環境、農業ゾーンを大切にしようと、そこの生産物を皆使ってね、キロメートロゼロというんですけ
ど、出来るだけ消費者と生産者を近づける。
鹿野:地産地消ですね。
陣内:地産地消、それを正にイタリアが進んでやっていて、プーリアにその典型が見られるのですね。その生産者の所を訪ねたいという風に前から思っていました。それはプーリアだとワインもあるし、オリーブオイルもあるし、パンもあるし、色んな食材を作っている農園みたいな所からスタートしているのが多いと思いますけど、そこを訪ねるっていうのは僕も少しずつやってきました。大橋さんのご主人は元々ホテルマンで、観光や料理が専門で、ふたりとも素敵なカップルです。偶然ですけど、ご主人が、僕が70年代に調査をしていたチステルニーノの出身なんですよ。そこに大橋さんが結婚されて根を下ろしてらっしゃる。そのお二人の地元のネットワークで飛び切り良い生産者を紹介してくださるということなんです。僕としても最近のイタリアの良さ、底力がそこにあると見ていて、それを皆さんで体験できるという、願ってもないチャンスだなと思って、今度一緒にプログラムを作ったんです。

 

◆プーリアの魅力ある街を読む旅を◆

 

鹿野:有難うございます。今回の旅行の見所とか、とても面白いプログラムが用意されていることがわかりました。最後に、先生のご専門の立場から何かございますか?
陣内:今回訪ねる素敵な良い町は、色んなバラエティに富んでいますけど、一つは海沿いの港町ですね。海沿いの港町っていうのは要塞化して外敵から守り、凄く迫力があるいい空間が多いんですね。もう一つは田園。内部の非常に美しい起伏のなだらかな豊かな大地の上に点在している小さな白い町ですね。その2つのカテゴリーのものを上手く組み合わせて行くんですけど、いずれも自分自身、法政大学の研究室で長年取り組んできた調査対象地を選んでいます。地元の家族に色々お世話になりながら、家を訪ね、実測して図面を作り、報告書を一杯作ってきました。そういうところの資料の図面とか持って行って、それで皆さんと一緒にコピーを見ながら外から観察します。路地とか建物の中の事も、中に入るのは難しいかもしれませんが、外から説明しますので、この中の人々が、どんな風に町が出来、どんな風に暮らして来たか、今どんなことがあって、どんな風に再生されつつあるのかを、本当にリアルに説明できると思います。そういう滅多にないチャンスです。
鹿野:本日は、お忙しいところ有難うございました。先生の旅は、街を歩いて角々で、広場で、先生が解説される、普通の旅では体験できない深い旅を味わって頂けると思います。どうぞ、よろしくお願いします。
(聞き手 朝日旅行・鹿野眞澄)

 

投稿:WEB管理担当