出発地を選択してください。出発地はいつでも変更できます。
出発地を選択してください。
×
MENU

機関誌「旅なかま」掲載記事など最新のトレンドがわかるブログ

旅のアクセント

2019年10月25日

《対談》池田先生&塚本先生~「美の旅」に寄せて~(前半)

 

『美の旅』は今年で16年目を迎えています。本日は、日頃から講師同行ツアーや『美の旅』の企画にご協力をいただいている塚本博先生と池田健二先生に、それぞれ「絵画」と「教会」の観点から、『美の旅』への思い、そして美術鑑賞のポイントなどについて対談をしていただきます。

 

Q まずは、『美の旅』のパンフレットをご覧になってのご感想をいただけますでしょうか。

塚本: 美術のツアーとして非常に完成された形になってきていて、行かれた方々の感想を聞いていますと、添乗員が非常に詳しいし、ツアーで配られる資料が、かなり専門的なことまで盛り込んで書かれていると。行く場所も、初めは定番的なコースが多かったでしょうけれども、最近は、ロマネスクもルネサンスも美術館めぐりも非常に詳しくて、美術のツアーとしてはかなり成熟しているという印象を持っています。

池田: その通りで、美術館を体系的に広い範囲で巡るというのは、この『美の旅』のシリーズしかないと思っています。それと同時に、最近様々な情報が出回りまして、今まであまり知られていなかった美術館にも注目が集まるようになってきています。定番的な美術館はもちろんですけれども、これから新しい美術館を発見するという可能性もこの旅の中にあると感じています。

塚本: どんどんグレードアップしていって、美術館でも教会でも相当専門的なところまで見るようになってきています。一方で、ルーヴルでもメトロポリタンでも世界的に有名な美術館のツアーもきちんと残っているんです。かなりヴァリエーションがあるスタイルになってきていますね。

池田: 大きな美術館でも、時折改装があって、展示の入替えや配置など様々な変化がありますよね。そうした意味では、一度行ったからいいというのではなくて、また行き直すというのも、旅のひとつの楽しみだと思います。

塚本: そして、美術館では、その時々に特別展をやっています。うまいタイミングに行くと、素晴らしい展覧会を
やっていて、ツアーでもそうした特別展に当たることがあります。これも複数回『美の旅』に行くことの魅力だと思います。今年の場合ですとレオナルド展、来年はラファエロ展があるわけです。

 

Q 今までのツアーの中で、印象に残っているものを、お聞かせください。

塚本: 20年来美術ツアーをやっていて世界中をまわりましたが、一番印象的だったのは、2008年のトスカーナのツアーです。ルッカ、ピサなどトスカーナの西の方までしっかりまわって、さらに、最後のローマで画期的な「ジョヴァンニ・ベッリーニ展」を見たんです。これは、世界中からベッリーニの作品を5、60点集めた展覧会で、本当に感激しました。それと、2015年にフレスコ画のツアーで、ミラノの北カステル・セプリオの、フレスコでは最古の部類のものから、カスティリオーネ・オローナ、パルマのコレッジョ、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラのギルランダイオ、さらにはアレッツォのピエロ・デラ・フランチェスカ、スポレートのフィリッポ・リッピなど、フレスコ画のスポットを全てめぐりました。また、2016年には シチリアを一周しました。シチリアでは、古代遺跡や中世のモザイク、カラヴァッジョの作品、そして私にとってはアントネッロ・ダ・メッシーナです。シチリアという三角形の島に西洋美術が凝縮されていて印象的でした。この3つのツアーが特に印象に残っています。

池田: 私は今まで7回のツアーを行いました。最も印象的だったのは、一番最初の、イタリアの中にあるローマへの巡礼路『ヴィア・フランチージェナ』を行く旅です。まだ決して有名ではないルートですけれども、アルプスを越えたトリノの奥から入って、ロンバルディアとかトスカーナを抜けて、最後にローマに至るという旅でした。
何度も行っている国ですが、あらためてイタリアという国の奥深さを感じると同時に、切り口によって新しい見方が出来るという点において新鮮でした。中世の巡礼路ですから、その途上に中世の重要な町々、重要な教会が揃っていて、ルッカ、パルマといった重要な巡礼の街もゆっくり見ることができ、同じローマに入るのでも、巡礼路を辿ってローマに入ると、高速道路を通ってローマに入るのとはまた違った印象で、巡礼路をめぐる旅の楽しみを感じました。その続きで、翌春には、南イタリアの巡礼路というテーマでまわりました。これは、エルサレムに巡礼するために、ローマからブリンディシに抜けて行く、かつての街道です。同じ巡礼路というテーマのもとに束ねて、南イタリアの中世の教会を巡ったのも非常に印象深いものでした。

 

Q 両先生のツアーは、美の旅のコースに反映させていただいています。次に、普通のツアーですと、美術館とか教会はちょっとしたテイストとして入っているに過ぎないのですが、そうしたものを集中して見ることの醍醐味はなんでしょうか。

塚本: 一般的な観光コースに比べて、美術館に出かけるということは、実物に触れるという決定的な違いがあります。日本でもいくつもの素晴らしい展覧会がありますが、本当の名作中の名作というのは、美術館は外に出さないんです。世界中の美術館を見ている眼からすると、名のある美術館に出かけると、やはり決定的な名画に出合うと。美術館の中で名画を探し当てると、その名画と並ぶくらい価値のあるものや目指すもの以上のものが周りに連鎖的にあるんです。そこに出かけたことによって、自分の中に新しい美意識、審美観というものが生まれるかも知れないですね。その辺が美術館を見る醍醐味じゃないですかね。そして、大きな美術館の小さなコーナーに特別展があるのですが、これがなかなか素晴らしい趣向で、自分たちが持っている名画を数点チョイスしてやるんです。そうした情報はどこにもなくて、現場で初めて自分の知らない芸術に出合うと。その辺も大きな魅力であり、醍醐味だと思います。

池田: 私の作っている旅は、 ロマネスクの教会だけを巡るということで、非常に特定の対象に特化されたものです。しかし、ロマネスクというひとつのテーマに絞りながらまわっていくことによって、これは中世のヨーロッパキリスト教世界全体にあるものですから、その全体に行けるんです。回数を重ねながら広く巡れるというのが、ロマネスクというテーマに絞り込んでいくひとつの魅力です。それと、一般のツアーは都市を巡るという形が基本だと思いますが、ロマネスクの場合は、教会そのものが田園にあります。もちろん都市にもあるので、都市も田園もめぐるという、ここにもひとつの魅力があります。ヨーロッパの大地を、風景を見ながら体系的に巡るということは、ロマネスクのツアーであれば可能で、また喜びです。ロマネスクという芸術の特質なのですが、周りに風景があり、そこにロマネスクの建築があり、建築に付随する形で浮彫りやフレスコなどがあるということで、その場に行かなければ見ることができない。そしてまた幸いなことに、ヨーロッパには恐らく数千の教会が残っていて、どれも巡ってみる価値がある。私の旅のスタイルは、ひとつの地域を決めて、そこにあるロマネスクの教会を丁寧にめぐるという形をとります。

 

Q よくお客様から、美術のツアーに出かける前に、どうやって何を下調べしたらいいのかと聞かれます。いろんなことを調べていくのがいいのか、それとも自分の印象を優先した方がいいのかなど、どうお考えになりますでしょうか。

塚本: 私が一番必要だと思うのは、ダイジェスト版でいいから聖書を読むということです。ギリシャの神話と聖書の物語はヨーロッパの美術には欠かせません。聖書に出てくる人物のストーリー展開を知らないと、現場でテーマも理解できないし、美術も味わえないわけです。かといって、何百ページという分厚い聖書自体を旅の前に読むのはきつい話です。ダイジェストしたキリストの物語とか、少年少女向けの聖書物語とかいくらでも簡略化されたものがあるんです。ストーリーを頭の中に入れるために、そうした小冊子版の聖書を読んで行くことが、教会でも美術館でも準備の基礎として一番いいと思うんです。

池田: ロマネスクの教会をめぐるにはますますそうです。中世は信仰の時代で、芸術というとほとんどキリスト教芸術です。そこに刻まれたり描かれたりしているのは聖書、ないしはそこから展開するテーマですので、極めて重要で、逆にそれに対する関心や知識がなければ、なかなか楽しめません。図像がわかるとかわからないと言われますが、段々それが分かっていくことが旅の楽しみです。塚本先生もおっしゃったように、聖書の物語やダイジェストしたものから入れればいいのですが、あの分厚い聖書には、そうしたところに描かれたり刻まれているものの、少なくとも聖書に由来する物語であれば、8、9割はカバーできるという部分があるんです。それは、旧約聖書であれば『創世記』、新約聖書であれば、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの『四福音書』と『使徒言行録』という部分です。それを読むだけであれば大したページ数ではありません。もうひとつ、13世紀に書かれた『黄金伝説』という書物がありまして、とりわけルネサンス美術については基になっています。これが四巻本となっている大変な書物ですが、そういうものがあるということを頭の片隅に留めておかれれば、探せば日本語で読めて、読んでみるとまさに書かれている通りのストーリーになっていることを発見できます。

 

Q ルーヴルのような大きい美術館やシャルトル大聖堂のように大きい教会での、鑑賞のポイントはなんでしょうか。

塚本: 巨大な美術館というのは、入れば何時間もかかります。私が思う一番大切な見方のポイントは、分野を絞ることです。全部を見ようとするとどうしても浅く薄くなってしまう。ですから、ルネサンスを見るとか、フランス美術を見るとか、あるいは何度も訪れているので今回は彫刻を見ようというふうに、どの分野と絞り込んで行きますと、非常にゆったりと作品を見ることができます。ルーヴルの場合、ツアーではどうしてもモナリザなどのルネサンスのグランドギャラリーを中心に見るわけですけれども、複数回行くと他が見たくなります。たとえば、フランドルとかフランス美術も充実していますので、テーマをある程度絞り込むことによって、その美術の世界に自分が入って行けます。そうしますと、いろんな作品の芸術的なインパクトがストレートに目から入ってくると思うんです。

池田: 美術館で集中力が保てる時間には限界があって、自分としては2時間くらいです。ですから、2時間見て、食事をして、2時間見て、ゆっくりお茶を飲んで、また2時間見てという風な見方、そしてその2時間についてはテーマを絞り込んで見るということだと思います。教会の場合、中世の大きな対象は、やはりシャルトルです。シャルトルは建築も、3つの扉口を飾る彫刻も素晴らしいですし、中に入るとステンドグラスが無限と言えるほどあります。美術館と比べれば、ロマネスクではそのような大きな対象は少なくて、むしろ、ひとつの教会を1時間から1時間半くらいの見学で次々とめぐっていくというのが、旅のスタイルです。見学の準備については、その教会のある程度の概要を頭に入れて行くことなのですが、残念ながら人間の記憶には限りがあります。あとは現地に立って静かに目を凝らして対話をし、わからないものがあれば後から調べたり、私が講師としている場合には聞いて頂いたりという形となります。しかし私はあまり多弁に説明することはしないことにしています。というのは、人間というのは、感じ取るということと考えるということを同時に行うことは非常に難しいです。まず感性でとらえ、知性で考えていくという手順がいいのではないかと思います。

(次号に続く)

■■■関連ツアー■■■

 

 

 

 

 

投稿:WEB管理担当